2014-01-01から1年間の記事一覧

「罪と罰」39(1−6)

彼は門の下で立ち止まって考え込んだ。往来に出て、このまま体裁のために散歩するのは不愉快だ、部屋に戻るのは――もっと不愉快だ。“もうこんなチャンスは二度とないぞ!”――そうつぶやいた彼は漫然と門の下で屋敷番の暗い小部屋に正対して立っていたのだが、…

「罪と罰」38(1−6)

だがそれは今のところどうでもいいことであり、彼はそのことについて考えようともしなかったし、またそんな時間もなかった。彼が考えていたのは一番大事なことであって、些細なことについては自分自身で全てのことに納得がいく時まで先延ばしにしていた。だ…

「罪と罰」37(1−6)

彼が食べたのは僅かで、食欲はなく、スプーンで3、4杯ばかりを機械的にといった具合にであった。頭痛は弱まっていた。食事を済ますと彼は再びソファの上に長々と横になった。しかし最早寝付くことはできず、うつ伏せでじっと横になり、顔を枕にうずめてい…

「罪と罰」36(1−6)

ラスコーリニコフは途轍もなく動揺していた。もちろんこんなことはみな極ありふれた極頻繁に交わされる、すでに何度も彼が耳にした、形式だけは別で異なるテーマでの、若者の会話、考えである。だがなぜこの今に、彼が他ならぬあのような会話、あのような考…

「罪と罰」35(1−6)

後になってラスコーリニコフは、一体何のために町人と農婦がリザヴェータを自分たちの元に呼んだのかを、どうかして偶然にも知ることとなった。事の次第はごくありふれており、そこにそれほど特別な要素は何もなかった。よそから来た落ちぶれた家族は身の回…

「罪と罰」34(1−5)

後になって彼がこの時のことを、その日に彼の身に起きたことすべてを時系列に沿って細部まで思い起こす時、彼を迷信に至らすほど驚愕させたのはいつも一つの状況であった。もっとも本当のことを言えばそれはそれほど特別というわけではない。しかしそれはあ…

「罪と罰」33(1−5)

「おお、てめえなんか蚊に喰われちまえ!道を開けろ!」狂ったように叫んでいるミコールカは轅を放り投げると、再び馬車の中にかがみ込み鉄棒を引っ張り出す。「気をつけろ!」と大声を上げる彼はありったけの力で自分の不幸なめす馬っこに振り下ろす。下さ…

「罪と罰」32(1−5)

みんな大笑いしながら容赦なくミコールカの馬車に乗り込んでいく。乗ったのは6人ばかり、でもまだ乗れる。農婦を一人乗せる、太っていて血色がいい。彼女はキャラコの服、ビーズが刺繍された頭巾、防寒靴を身にまとい、クルミを歯で割り時々笑っている。群…

「罪と罰」31(1−5)

病的な状態の時に見る夢はしばしば尋常でない明瞭さ、鮮明さ、そして度外れた現実との類似性という特徴を持つ。時折途轍もない場面が形成されるのだが、あらゆる表象の状況及び全プロセスがこの時にはあまりにも本当らしく、またあまりにも精巧で思いも寄ら…