2015-01-01から1年間の記事一覧

「罪と罰」47(2−1)

階段で彼は思い出した。品々をみなあんな風に壁紙の穴の中に残してきたことを。――“それに俺がいない間に捜索ということかもしれん”――思い出すと立ち止まった。だがあまりにも深い絶望、あまりにも激しい、こう言ってよければ、破滅のシニシズムが突然彼を支…

「罪と罰」46(2−1)

「開けなさいって言ってるでしょ、生きてるの、死んでるの?ほんといっつも寝てばっかりいるんだから!」そう叫びつつナスターシャは握りこぶしでドアをドンドン叩いていた。「ほんと一日中畜生みたいに寝てばっかり!本当に畜生だわ!開けなさい、どうなの…

「罪と罰」45(2−1)

そのようにして彼は非常に長い間横になっていた。時折彼は覚醒したかのようになることもあって、その瞬間にはもう大分前から夜であったことを意識するのだが、起きなければという考えには至らなかった。ついに彼はすでに昼のように明るくなっていることを認…

「罪と罰」44(1−7)

彼がもう3階を過ぎたという時、突然もっと下の方から大きな音が聞こえてきた――どこに隠れたらいい!どこかに隠れるなんてできやしなかった。彼は元の所へ、再び部屋の中へと駆け出そうとした。「おい、化け物、悪魔!抑えろ!」 叫び声とともに誰かが下の方…

「罪と罰」43(1−7)

そしてようやく、すでに来訪者が4階へと上り始めた時、ちょうどそのタイミングでやっと彼の総身は突如として動き出したのだが、それでもさっと機敏に玄関口から部屋の中に戻り、後ろ手でドアを静かに閉めることができた。それからかんぬきを掴むと静かに、…

「罪と罰」42(1−7)

彼はどんどんどんどん恐怖に囚われていった。特にこの二回目の全く予期せぬ殺害の後はそうだった。彼はなるべく早くここから逃げ出したかった。もしもこの瞬間に彼がより正しく状況を捉え判断できる状態にあったなら、もしも自分の置かれた状況のあらゆる困…

「罪と罰」41(1−7)

ドアがこの前と同じようにごく僅かな隙間の分だけ開くと、再び二つの鋭い猜疑心に満ちた視線が暗闇の中から彼の方に向けひたと据えられた。この時ラスコーリニコフはどぎまぎして危うく致命的な失敗をやらかしてしまうところだった。 老婆が彼らの他に誰もい…

「罪と罰」40(1−6)

一息つきどきどきしている心臓に片手を当て、すぐ斧を探し当てると再度位置を修正し、彼は慎重にそうっと階段を上り始めた。聞き耳は絶えず立てていた。だが階段もその時全くの無人であった。全てのドアは閉じられ、誰とも出くわすことはなかった。二階の一…