2021-01-01から1年間の記事一覧

「罪と罰」82(2-6)

彼は外に出た。ある激しいヒステリックな刺激のため全身が震えていた。そこにはしかし耐え難い愉悦の一部が存在していた。――とはいえ気分は沈み、恐ろしく疲れていた。その顏は歪み、何かしらの発作の後のようであった。疲労が加速度的に増していった。力が…

「罪と罰」81(2-6)

「いやー随分とまあ恐ろしいことを言いますね!」笑いながらザメートフが言った。 「ただしそれはみなただ言葉の上でのことにすぎなくて、実際にはまあ、うまくいかないでしょうね。言わせてもらいますが、私の考えでは、僕らは言うに及ばず、たとえ経験ある…

「罪と罰」80(2-6)

とうとう彼はそう言った。ほとんど囁き声で。自分の顔をザメートフの顔にこれでもかと近付けて。ザメートフは彼の顔をまじまじと見つめていた。身動きもせず、自分の顔を相手の顔から離すこともせず。後になってザメートフに何より奇妙に思われたことは、き…

「罪と罰」79(2-6)

「かしこまりました。これが今日の分でございます。ウォッカも飲まれますか?」 古い新聞と茶が出てきた。ラスコーリニコフは腰を落ち着けて探し始めた。“イズレル――イズレル――アツテキ――アツテキ――イズレル――バルトラ――マッシモ――アツテキ――イズレル・・・…

「罪と罰」78(2-6)

彼は以前にもしばしばこの曲がり角を含む、広場からサドーバヤ通りに通じている短い横町を使っていた。最近彼はこうしたあらゆる場所をふらつきたい誘惑に駆られていたほどであった。やり切れない状況になっていく中、“一層やり切れなくなるために”。今彼は…

「罪と罰」77(2-6)

だが彼女が出ていくと、すぐ彼は起き上がってドアに鉤を掛けた。そして先ほどラズミーヒンが持って来て、自分でまた閉じた服の入った包みを解くと着替え始めた。妙なのは彼が突然すっかり落ち着きを取り戻したように見えたことである。先のような狂人の戯言…