「罪と罰」79(2-6)

 「かしこまりました。これが今日の分でございます。ウォッカも飲まれますか?」

 

 古い新聞と茶が出てきた。ラスコーリニコフは腰を落ち着けて探し始めた。“イズレル――イズレル――アツテキ――アツテキ――イズレル――バルトラ――マッシモ――アツテキ――イズレル・・・ちっ、くそっ!おっ事故欄だ。階段から転落――酒が原因で町人焼け死ぬ――ペスコフ地区で火災――ペテルブルク地区で火災――さらにペテルブルク地区で火災――さらにペテルブルク地区で火災――イズレル――イズレル――イズレル――イズレル――マッシモ・・・あっこれだ・・・”

 

 彼はとうとう探し求めていたところのものを発見すると読み始めた。新聞の行が彼の眼前で跳びはねていた。それでも彼は全ての“消息”を終わりまで目を通すと、むさぼるようにして次の号の最終追加分の検索に取り掛かった。ページをめくる彼の手は、発作的な焦りのために震えていた。突然誰かが彼のすぐ近くに、彼のテーブルに座った。彼はちらと見た――ザメートフ、まさにあのザメートフ、しかも同じ格好、宝石入りの指輪をはめ、鎖を垂らし、ポマードが塗られた黒い縮れ髪は分けられ、粋なベストに、いくらか擦り切れたフロックコート、それに汚れた下着という格好の彼であった。彼は陽気で、少なくとも非常に陽気で善良な笑みを浮かべていた。浅黒い彼の顔はシャンパンを飲んだせいでやや赤くなっていた。

 

 「えっ!あなたがここに?」彼はとまどいつつも、ずっと前からの知り合いであるかのような調子でしゃべり始めた。「つい昨日ラズミーヒンが俺に言ったんだぜ。あなたがまだ正気に戻ってないって。こりゃおかしなこった!だっておれはあなたのとこに行って・・・」

 

 ラスコーリニコフは彼が近付いて来るのを知っていた。彼は新聞を脇に置くとザメートフの方へ向き直った。彼の唇には薄笑いが浮かんでいた。そして何かしら今までに見たことのないぴりぴりした焦燥がこの薄笑いに現れていた。

 

 「あなたが来ていたのは知っていますよ。」と彼は答えた。「伺っています。靴下を捜索していたと・・・。ところでご存知ですか。あなたに夢中になっているラズミーヒンが、あなたと彼でラビーザ・イヴァーノヴナのとこへ行ったと言っているのを。ほらその人のことであなたがあの時一生懸命になって、火薬中尉に目配せしているのに、彼は全く気付いていなかった。覚えていますか?まるで分かってないようでしたよ――あからさまなのに・・・ねえ?」

 

 「全くとんでもないお騒がせ男だな!」

 

 「火薬さんが?」

 

 「いや、あなたの友人のラズミーヒンさ・・・」

 

 「ところでいい暮らしをしてるんですね、ザメートフさん。随分とまあいいところに無料で入れるんだから!今あなたにシャンパンを注いだのは誰です?」

 

 「いやそりゃ私たちは・・・飲みはした・・・注いだだって?!」

 

 「謝礼の類!利用できるものは何でも利用する!」ラスコーリニコフは笑い出した。「問題ないですよ、お坊ちゃま、問題ない!」ザメートフの肩を叩いて彼は言葉を続けた。「面当てじゃないんですよ、“みんな親愛の情からくる冗談”として言ってるんだから。ほらちょうどあのあなたの同僚が言っていたように。彼がミーチカをぶん殴っていた時に、ほら例の婆さんの件で。」

 

 「どうしてあなたがそれを?」

 

 「もしかすると僕はあなたの同僚より知っているかもしれませんよ。」

 

 「何かあなたちょっと変だぞ・・・きっとまだ相当悪いんだ。勝手に出てきちゃって・・・」

 

 「あなたには僕が変に思われるんですか?」

 

 「ええ。こりゃなんです。新聞を読んでいるんですか?」

 

 「新聞ですよ。」                                        

 

 「火事についていろいろ書いてあります・・・」「いや、僕が読んでいるのは火事についてではない。」この時彼は謎めいた視線をザメートフに向けた。人を小馬鹿にしたような笑いが再び彼の唇を歪めた。「違うんですよ。僕が読んでるのは火事についてではないんです。」ザメートフに目配せしつつ彼は続けた。「白状しませんか、お兄さん、僕が何を読んでいたか気になってしょうがないってことを?」

 

 「全く気になりませんね。なんとなく尋ねただけです。聞いちゃだめってことじゃないでしょ?何をあなたはずっと・・・」

 

 「まあ聞いてください。あなたは教育を受けた教養ある人、ですよね?」

 

 「ギムナジウムに6年間通ってましたよ。」ザメートフはいくらか誇らしげにして答えた。

 

 「6年間!いやまったく君は可愛らしいやつだ!髪を分けて、指輪をはめて、お金持ちってこった!やれやれ、とんだお坊ちゃまだ!」この時ラスコーリニコフは発作的にげらげら笑い出した。ザメートフの顔をまともに見つつ。彼はぱっと脇へ退いた。それは侮辱を感じたためではなく、非常に驚いたためであった。

 

 「ふー、いかれてる!」ザメートフはひどく真面目な調子で繰り返した。「僕には、あなたがまだうわ言を言ってるように思えますね。」

 

 「うわ言を言ってる?出まかせを言うじゃないか僕ちゃん!・・それで僕がおかしいっていうのかい?さて、であなたは僕に関心がある、ん?どうです?」

 

 「関心はありますね。」

 

 「まあつまりその、僕が何について読んでいたか、何を捜していたかについて?ほらこれ全くどれだけ持って来させたんだ!疑わしい、ですね?」

 

 「まあその続けてください。」

 

 「全身耳?」

 

 「そりゃ一体どういうことです?」

 

 「それについては後で言うとして、今は、ザメートフちゃん、あなたに言明しておきます・・・いや、こう言った方がいいか“告白します”・・・いや、それも違うな。“僕は証言して、あんたはそれを聞き取る”――これだ!ということで証言します。読んでいました、関心がありました・・・探していました・・・必死になって探していました・・・。」ラスコーリニコフは瞬きして待った。「必死になって探していたのは・・・そのためにここに立ち寄ったんです。・・・老婆の、官吏の妻の殺害についてです。」