「罪と罰」67(2−4)

 「彼もお前の何かしらの親類なのかい?」

 「最も遠いところのその類さ。でもなんでしかめ面してんだ?そりゃかつて君らが仲違いしたから行かない、ということかい?」

 「彼のことなんて知ったこっちゃないさ・・・」

 「なら何より。そんで来るのは学生に、先生だろ、役人が一人、音楽家が一人、将校に、ザメートフ・・・」

 「ひとつ教えてくれよ、君やあの彼が何を共有できるんだい」ゾーシモフは頭でラスコーリニコフを示した。「ザメートフなんかと?」

 「ああ全くこの不満ばかり言ってる連中ときたら!原理原則ってか!・・そうやってお前は何もかも原理原則で判断するんだ、ちょうどばねではじかれるみたいに。自分の自由意志に従って向きを変える権利はない。だが俺の考えじゃ、そいつがいい奴なら、これこそ原則さ、それ以外のことは知りたいとも思わない。ザメートフはそりゃもう実に素晴らしい奴だよ。」

 「不正に儲けているけどな。」

 「まあ、確かに不正に儲けているかもしれんが、そんなことは知ったこっちゃない!不正に儲けている、それが何だ!」突然ラズミーヒンが叫んだ。何だか異常にいらついていた。「あいつが不正に儲けていることを俺が本気で褒めてお前に聞かせているとでも?俺が言っているのは、あいつがある点からすると素晴らしいってことさ。率直に言って、人間をありとあらゆる性質において見れば、良い人間なんてそんなに残るかな?そう俺が確信しているのは、その場合、この俺は、臓物まるまるつけても、せいぜいたった一個の焼きたまねぎくらいにしか値しなくて、しかもお前と一緒でちょうどいいくらいかもしれないってことさ!・・」

 「それじゃ少ないだろ。俺ならお前に二個はやるがね・・・」

 「俺ならお前にはたった一個だ!もっと冗談を言ってみろよ!ザメートフはまだお子ちゃまなんだ。俺はもう彼の髪の毛ならいつでも引っ張れるんだぜ。なぜって彼を引きつけることが必要なんであって、突き放すんじゃないからさ。人を突き放していたんでは矯正することはできない。ましてお子ちゃまであればなおさらさ。お子ちゃまを相手にするなら二倍注意を払わなければならない。全くあんたたち、進歩的なお馬鹿さん連中ときたら、何にも分かっちゃいないね!人を敬わず、自分を侮辱している・・・でももし知りたいんであれば、僕らは一つの共通の問題を抱えることになるだろうね。」

 「知りたいもんだね。」

 「事はすべて塗装工、つまり染色工に関してなんだがね・・・そりゃもちろん僕らは彼を救い出すさ!でも今は何の心配もない。事は全く、いや全くもってして今や明白なんだ!僕らはただ蒸気を少し蒸かしてやるだけさ。」

 「染色工とか何とかって言うのは?」

 「何、本当に話してなかったっけ?話してない?ほらあの、お前に事の最初だけ話した・・・ほら高利貸しのばあさんが殺された件だよ、官吏の妻の・・そんで今そこに染色工も巻き込まれちまって・・・」

 「殺人の件についてならお前の話を聞く前に耳にしていたぞ。しかもその事については興味さえ覚えている・・・幾らかだが・・・ある理由のために・・・新聞でも読んだしな!だがほら・・・」

 「あのリザヴェータも殺されたのよ!」突然ナスターシャがラスコーリニコフに向かって不用意な言葉を発した。彼女はずっと部屋に残っていて、ドアに寄り掛かって聞いていたのだ。

 「リザヴェータが!」どうにか聞き取れる声でラスコーリニコフがつぶやいた。
 
 「リザヴェータよ、あの行商の、本当に知らなかったっけ?彼女ここに、下に出入りしてたのよ。あんたのワイシャツを直したこともあるんだからね。」

 ラスコーリニコフは壁の方に向き直り、そのうす汚れた黄色い壁紙に描かれた可愛らしい白い花々の中から、何かしら茶色い線が入った不格好な白い花を選び出すと、じっくり見始めた。葉は何枚か、葉のぎざぎざはどんなか、線はいくつか、といった具合に。彼は自分の腕と足がしびれてしまったように、あたかも麻痺してしまったかのように感じた。だが身動き一つしようとせずしつこく花を見続けていた。

 「さて、それで染色工がどうしたって?」彼独特な不満の色を見せつつゾーシモフはナスターシャのむだ話を打ち切った。彼女はため息をつくと黙り込んだ。

 「彼も容疑者リストに加えられちまったのさ!」憤激したラズミーヒンが続けた。
 
 「何か証拠でもあるのかね?」

 「証拠なんて知ったこっちゃないのさ!だがまさにその証拠に基づいて、証拠とやらが証拠足りえない、このことを証明する必要がある!やつらのやり方ときたら、はなっから連行していって嫌疑をかけたんだぜ、例の、何て言ったか・・・コーフとペストリコーフに。くそったれ!そのやり方の一切が実に馬鹿げていて、他人事ながら吐き気がしてくるぜ!そのペストリコーフは今日俺のとこに寄るかもしれないんだ・・・ついでながら言っておくけど、ロージャ、お前はこの話をもう知ってるんだぜ。まだ病気になる前に起きたことで、ちょうどあの前日さ。お前が警察署で失神した。あの時そこじゃこのことについて話がなされていた・・・」

 ゾーシモフは興味を持ってラスコーリニコフの方を見た。彼は微動だにしなかった。