2016-01-01から1年間の記事一覧

「罪と罰」55(2−2)

だが彼は群島にも行く運命にはなっていなかった。別の事態が生じたのだ。B通りから広場に出ると、彼は突然左手の方に、中庭に通じる開口部のない壁ですっかり囲われた入り口があることに気付いた。右側からは、門に入るとすぐ、奥の中庭へと、開口部のない、…

「罪と罰」54(2−2)

“だがすでに捜索が入っていたら?ちょうど家で彼らと鉢合わせすることになったら?” だがもう彼の部屋の前だ。何事もない。誰もいない。誰も立ち寄っていなかった。ナスターシャすら手を触れていなかった。だがこれは一体!どうして彼はさっきこれらすべての…

「罪と罰」53(2−1)

「ですがちょっと待ってください。一体どのようにしてこんな矛盾が生じたんです。つまり彼ら自身の証言によれば、ノックはした、ドアは鍵がかかっていた、ということですが、その一方で3分後、庭師と共に戻って来てみると、ドアは開いていたということにな…

「罪と罰」52(2−1)

「そんな感傷的な細々した話は何もかも、閣下、我々には関わりありません。」傲然と切り捨てたのはイリヤ・ペトローヴィチであった。 「あなたは証書と誓約書を出さなければいけないんであって、あなたがどれほど惚れていなさっただとか、その悲劇的な役回り…

「罪と罰」51(2−1)

「また大音量、また雷、竜巻、嵐か!」愛想よく、親し気にニコヂーム・フォミーチがイリヤ・ペトローヴィチに話しかけた。「また心を乱されて、また沸騰しちゃったんだな!階段のところでもう聞こえていたぞ。」 「それが何か!」品位を保ちつつ無頓着に言い…

「罪と罰」50(2−1)

「騒ぎに喧嘩だなんてうちじゃ一切なかたでしたよ、カプテン様」突然彼女は早口でべらべらやり出した。それはあたかもエンドウ豆をこぼしてしまったかのようで、強いドイツ訛りがあったが、威勢のいいロシア語であった。「それにどんな、どんなシュキャンダ…

「罪と罰」49(2−1)

「それはあなたには関係ないことです、御仁!」彼は仕舞いにどこか不自然な程大きな声で叫んでいた。「さあそれじゃ求められているものを出してもらいましょうかね。彼に見せてやってくれ、アレクサンドル・グリゴーリエヴィチ。訴えがきているんですよ、あ…

「罪と罰」48(2−1)

彼は自分の内のありとあらゆるところで凄まじい混乱を感じていた。彼自身自らを制御できなくなるのではないかと恐れた。何かしらにすがりつこう、何かについてとにかく考えよう、全然関係ないことについて、そう努めたが、それは全くの徒労に終わった。とは…