2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

「罪と罰」2(1−1)

だからと言って彼はそれほど臆病でも、気が弱いわけでもなく、むしろ全くその逆でさえあった。だがしばらく前から彼は、ヒポコンデリーに似た苛立ち易い張り詰めた状態にあった。彼は自分の内に深く沈み込み、他人から遠く離れたところにいたので、女家主に…

「罪と罰」1(1−1)

7月の初め、この上なく暑い時間帯の夕方近く、ある青年がS横丁で又借りしている自分の小部屋から往来に出てきた。そしてゆっくりと、まるでためらっているかのように、K橋の方に足を向けた。 階段で女家主に出くわすことを、彼はうまく避けることができた。…