「罪と罰」1(1−1)

 7月の初め、この上なく暑い時間帯の夕方近く、ある青年がS横丁で又借りしている自分の小部屋から往来に出てきた。そしてゆっくりと、まるでためらっているかのように、K橋の方に足を向けた。

 階段で女家主に出くわすことを、彼はうまく避けることができた。彼の小部屋は5階建ての高い建物の屋根のすぐ下に位置しており、人が住む所というよりはタンスに近かった。彼が昼食と女中付きで借りている小部屋の女家主は、1階下の独立した住居に住んでおり、彼が通りに出ようとする時は、階段に向かって大概すっかり開け放たれている女家主の台所の脇を毎回必ず通る必要があった。青年はその脇を通る度に病的な恐怖心とでもいうようなものを感じ、それを恥じ、顔をしかめた。彼は女家主に多額の借金をしており、彼女に会うのを恐れていた。