彼女を美人とは呼び難かったが、その青い目があまりに澄んでいたので、それが活気づくと、彼女の顔はそれはもう善良に、無邪気になり、はからずも人を引きつけるのであった。彼女の顔、それにその全体の様子にはその他に一つの際立った特徴があった。18歳という年齢にもかかわらず、彼女はほとんどまだ少女のようで、実年齢よりずっと若く、ほぼ完全に子供のように見えたのだ。このことが彼女の仕草のいくつかを時折滑稽にさえしていた。
「ですが本当にカテリーナ・イヴァーノヴナはあんなわずかな資金でやりくりできたのですか?しかも前菜まで準備するつもりなんでしょ?・・」とラスコーリニコフは尋ねた。会話をなんとしても続けようとしつつ。
「棺は粗末なものでございますから・・・それにすべて簡素に行います。なのでそんなに高くはなりません・・・先ほどカテリーナ・イヴァーノヴナとすべて見積もったんです。そしたら法事を行うお金は残るようなので・・・それにカテリーナ・イヴァーノヴナは是非そうしたいと望んでいます。そうしないわけにはいかないんでございます・・・彼女には慰めが・・・彼女はああいう人ですから。あなたもご存知でしょう・・・」
「分かります、分かりますよ・・・もちろん・・・どうしてまたあなたは僕の部屋をそうじっくり見るんです?この母も言ってるんですよ、棺に似てるって。」
「あなたは私たちに昨日全てを与えてしまったんだ!」突然ソーネチカが答えて言った。どこかこう強い、早い口調のささやきで。突然またぐっとうつむいて。彼女の唇と下あごがまたがくがくし始めた。彼女は大分前にすでにもうラスコーリニコフの貧しい家具調度にショックをうけており、そして今それらの言葉が突然勝手に飛び出てきたのだ。後に続いたのは沈黙だった。ドゥーネチカの目は何だか晴れやかになり、プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナは愛想さえ湛えてソーニャの方を見た。
「ロージャ」彼女が口を開いた。立ち上がりつつ。「当たり前のことだけど私たちは一緒に食事を取りますね。ドゥーネチカ、行きましょう・・・お前は、ロージャ、ちょっと散歩にでも出て、それから休憩して、少し横になったらいいんじゃないの。そしたらなるべく早く来てちょうだい・・・だって私たちがお前をへとへとにさせてしまったんじゃないかと・・・」
「もちろん、行きますよ。」と腰を上げつつ彼が答えた時には、そわそわし始めていた・・・「でも僕には用事が・・・」
「まさか本当に別々に食事を取るって言うんじゃないだろうな?」ラズミーヒンが叫んだ。驚きの眼差しをラスコーリニコフの方に向けつつ。「どういうつもりなんだ?」
「もちろん行くよ。当たり前じゃないか・・・だがお前はちょっと残ってくれ。あなた方に彼は今必要ないでしょう、母さん?それとも僕が彼を横取りすることになっちゃいますか?」
「おお、まさかそんな!でも、ドミートリー・プロコーフィイチ、食事には来ていただけるのでしょう?」
「どうかいらっしゃってください。」ドゥーニャが頼んだ。
ラズミーヒンは頭を下げると、顔中に喜びが溢れた。ほんの一瞬全員がどこか妙な具合に突然とまどいの色を見せた。
「さよなら、ロージャ、その、また会いましょう。《さよなら》なんて言うのは好きじゃありません。さよなら、ナスターシア・・・あっまた《さよなら》って言ってしまった!・・」
プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナはソーネチカにも頭を下げようとしたが、どうもうまくいかず、そそくさと部屋を後にした。
だがアヴドーチヤ・ロマーノヴナはあたかも順番を待つようにしていて、ソーニャの脇を母に続いて通り過ぎると、彼女に対し、注意深い、礼儀正しい深いお辞儀をした。ソーネチカは狼狽して、どこかせかせかと慌てふためいて頭を下げた。彼女の顔には痛みすら伴うある感覚が現れていた。まるでアヴドーチヤ・ロマーノヴナの礼儀正しさと注意が彼女にとっては重荷で苦痛であるかのように。
「ドゥーニャ、さようなら!」ラスコーリニコフは部屋を背にして叫んだ。「手を出してくれよ!」
「もうしたじゃない。忘れたの?」とドゥーニャが答えた。愛想よく、ぎこちなく彼の方に向き直りつつ。
「まあいいじゃないか、さあもう一度!」
そして彼は彼女の指をしっかりと握りしめた。ドゥーネチカは彼に笑顔を見せると、顔を赤くし、さっと手を引き抜いて母の後を追って行ってしまった。やはりなぜだか幸せでいっぱいだった。
「なんてすてきなんだ!」彼はソーニャに言った。部屋の中に戻りつつ、朗らかに彼女の方を見て。「主が死者に永遠の安息を給わんことを、生者はますます栄えよ!そうでしょ?そうでしょ?そうでしょうよ?」
ソーニャは急に晴れ晴れとした彼の顔を驚きすら伴って見ていた。彼はわずかの間黙って彼女を凝視していた。彼女の亡き父が語った彼女に関する話のすべてが、この瞬間彼の記憶を駆け抜けた・・・
「これはどうしたことなんだろうね、ドゥーネチカ!」プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナは通りに出るとすぐに話し始めた。「だって今あの場を離れたことで私自身うれしいみたいなんだもの。何かこう気が楽に。でもまさかこんなことを喜ぶようになるだなんて、昨日汽車の中で思うはずもないわね!」
「もう一度言っておきますけどね、母さん、彼はまだかなり病んでるわよ。気付いてないなんてことありませんよね?ひょっとすると、私たちのことで苦しんで、それで調子を崩してしまったのかも。彼は寛大にならないと。そうすれば多くの、非常に多くのことを許すことができます。」
「でもお前は寛大じゃなかったじゃないの!」かっとなったプリヘーリヤ・アレクサンドロヴナが妬まし気にすぐさま話をさえぎった。「いいかいドゥーニャ、私はお前たち二人を見てきたけど、お前は彼の完全なる生き写しだよ。見た目というより内面においてね。二人ともふさぎがちで、二人とも無愛想で短気、二人とも高慢で二人とも度量が大きい・・・だって彼がエゴイストってことはないでしょ、ドゥーネチカ?ねえ?・・ああ今晩どうなるのか考えるたびに、心臓が止まりそうになるよ!」
「心配しないでください、母さん。なるようになるわ。」
「ドゥーネチカ!私たちが今どんな立場に置かれているか考えても見なさいよ!もしピョートル・ペトローヴィチが断ったら一体どうするのよ?」あわれなプリヘーリヤ・アレクサンドロヴナが突然不用意に発言した。
「そうなったら彼にどんな価値があるんでしょうね!」ドゥーネチカが手厳しく、軽蔑するように答えた。
「私たちが今出てきてしまったのは良かったわ。」そわそわし始めたプリヘーリヤ・アレクサンドロヴナが話の腰を折った。「彼はどこかへ用事で急いでいたもの。少し歩かせて、外の空気を吸わせるぐらいさせないと・・・彼のとこの息苦しさったら・・・でもここじゃどこで空気を吸ったらいいんだろうね?ここの通りも通風口のない部屋の中みたいだもの。ああ、全くなんという町なんでしょう!・・ちょっと待って、脇へよけて、押しつぶされちゃうわ、何か運んでる!アップライトピアノだったわよ、本当に・・・よくまああんな押し合いへし合いして・・・あの娘は私もとっても心配だわ・・・」
「どの娘よ、母さん?」
「ほらあのソフィア・セミョーノヴナよ、ついさっきいた・・・」
「一体なぜ?」
「私にはこんな予感があるのよ、ドゥーニャ。まあ、お前は信じるか信じないか、彼女が入って来た時、私はまさにその瞬間思ったのよ。ここに主な悩みの種があるなって・・・」
「全く何もないわよ!」いまいましげにドゥーニャが叫んだ。「何なのよその予感は、母さん!彼はつい昨日彼女と知り合ったばかりで、さっき入ってきた時、誰だか分からなかったじゃない。」
「まあそのうち分かるでしょう!・・彼女は私を不安にさせるのよ。まあ見てなさい、分かりますとも!私はすごく怖かったんだから。彼女が私の方を見ている。見ているのよ。あんな目をして。私はどうにか椅子に座ってたわ。覚えてる?彼女を紹介し始めた時。それに不可解だわ。ピョートル・ペトローヴィチが彼女についてあんな風に書いているのに、彼は彼女を私たちに紹介し、さらにお前にまで!つまり彼にとって大切な人ということじゃない!」
「書いてることなんてどうでもいいわよ!私たちのことだって言われてきたし、書かれてもきたじゃない。忘れちゃったんですか?でも私は彼女が・・・素晴らしい人で、そんなことはみなたわごとだと信じているわ!」
「どうかそうであることを!」
「それにしてもピョートル・ペトローヴィチは質の悪いおしゃべり屋さんだこと。」突然ドゥーネチカがそっけなく言った。
プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナは意気消沈した。会話はそこで途切れた。
「そのなんだ、その僕はお前にある用事があってだな・・・」ラスコーリニコフが言った。ラズミーヒンを小窓の方へ連れて行きつつ・・・
「それでは私はカテリーナ・イヴァーノヴナにあなた方がいらっしゃるということを言っておきます・・・」ソーニャがせかせかして言った。帰ろうとして会釈しつつ。
「ちょっと待って、ソフィア・イヴァーノヴナ、僕らに秘密はありません。あなたは邪魔になっていませんから・・・僕はあなたにあと少し言っておきたいことが・・・そうあれだ」彼は言い終わることなく、まるでぶちまけるようにして、突然ラズミーヒンに話しかけた。「お前は本当にあの人を知っているのか・・・彼は何と言うんだっけ!・・ポルフィーリー・ペトローヴィチを?」
「もちろん!親戚だもの。それが何だって言うんだ?」急に高まる好奇心とともに彼は言い足した。
「彼が今例の件を・・・そのほら、例の殺人事件の・・・昨日お前たち言ってたよな・・・扱っているって?」
「ああ・・・それが?」ラズミーヒンは突然目を見開いた。
「彼は質入れした人に尋ねていたんだろ。そう、あそこには僕も質入れしてたものがあるんだ。まあ取るに足らないものなんだが、妹の指輪と、あいつが僕に記念でくれたんだ。僕がこっちへ来るときに。それから父さんの銀の時計さ。全部で5、6ルーブルそこらなんだが、僕にとっては価値あるもので、思い出なんだ。それで僕は今どうしたらいい?物が無くなってしまうのは嫌なんだ。特に時計は。さっきなんてびくびくしていたんだぜ。母さんがそれをちょっと見せてくれって言うんじゃないかって。ドゥーネチカの時計について話始めた時にさ。唯一の物なんだ。父さんの死後残った。彼女病気になっちゃうよ。それが無くなったなんてことになれば!女だからな!そんなわけだから、さあどうしたらいい、教えてくれ!分かってる。警察署に届け出る必要があるんだろう。だがポルフィーリー当人に、の方が良くないか、え?どう思う?事はなるべく早く片づけたいところなんだ。食事前に母さんが尋ねるようなことになったら!」
「警察署なんて絶対だめだ。間違いなくポルフィーリーに!」ラズミーヒンは何か並外れた興奮の中で叫んだ。「ああ、なんて最高なんだ!心配することなんて何もない。今行こう。すぐそこだ。きっと会える!」