「罪と罰」85(2-6)

 

 「このペテルブルグに一体何が無いって言うんすか!」熱っぽく若い方が叫んだ。「父ちゃん母ちゃんをのぞきゃ何だってありますよ!」

 

 「それ除きゃ、おめえよ、何でもあるわな。」教え諭すような態度で年配の方が同意した。

 

 ラスコーリニコフは立ち上がって別の部屋に行った。そこは以前、小さな長持ち、ベッドや整理箪笥が置かれていた部屋だった。家具のないその部屋は彼にはひどく小さく見えた。壁紙は以前のままだった。壁紙の隅に、イコン用戸棚が置かれていた跡がはっきりと示されていた。彼は一瞥をくれると元いた小窓に戻った。年配の作業員は横目で注意深く見ていた。」

 

 「何でございますか?」彼が突然ラスコーリニコフに向かって尋ねた。

 

 答える代わりにラスコーリニコフは立ち上がって玄関に出ると、呼び鈴をぐいと引っ張った。まさにあの呼び鈴。あのブリキの音!彼は2回、3回と鳴らした。彼は耳をそばだてて思い出そうとした。以前の、つらく恐ろしい、恥を恥とも思わぬ感覚がどんどんはっきり生き生きと思い出されてきた。彼は鈴が鳴るたびにびくっとなった。そして彼はどんどん愉快になっていった。

 

 「一体何の用だ?何者だ?」彼の方に出て行くと作業員が声を張った。ラスコーリニコフは再びドアの内に入った。

 

 「部屋を借りたいと思ってね。」と彼は言った。「見さしてもらってるよ。」

 

 「夜中に部屋を借りようとする人なんていません。それに屋敷番と来なきゃだめです。」

 

 「床が洗い流されているな。ペンキを塗るつもりかい?」ラスコーリニコフは続けた。「血はなかったかい?」

 

 「血って何の?」

 

 「ここで老婆がその妹と一緒に殺されたんだ。そこには大きな血だまりがあった。」

 

 「お前一体何者だ?」動揺する作業員が叫んだ。

 

 「僕?」

 

 「そうだよ。」

 

 「知りたいってのかい?・・警察署に行こう。そこで話すよ。」

 

 作業員たちは不審の目を彼に向けた。

 

「出る時間だ、旦那、ぐずっちまった。行くぞ、アリョーシカ。鍵をかけないと。」と年上の作業員が言った。

 

 「じゃあ、行こうか!」ラスコーリニコフは平然と答えると、先頭に立ってゆっくり階段を下りて行った。「おい、屋敷番!」門の下に出ると彼は大声で言った。

「罪と罰」84(2-6)

 「ぐでんぐでんに酔っ払ってたんです。助けてください。ぐでんぐでんに。」先と同じ女の泣き叫ぶ声が早くもアフロシーニユシカの近くから聞こえていた。「ついこの間も首をくくろうとして、縄から下ろされたんです。今しがた私は店に出かけてて、娘っ子を見ておくようあの子の元に残しておいたんです。――なのにもうこんなことになっちゃって!ここらの出なんです。あなた様。私らんとこの出なんですよ。私らはすぐ近くに住んでまして。端から2番目の建物です。ほらここです・・・」

 

 人々は方々へ去って行く。警察はまだ身投げした女にかかずらっている。誰かが警察のことで怒鳴り声を上げた・・・ラスコーリニコフはこれらすべてのことを冷淡にして無関心という妙な感覚で眺めていた。彼は不快になった。“だめた、忌まわしい・・・水は・・・やめた方がいい――彼は心の中で呟いた――何にもなりゃしない――と彼は付け加えた。――待ってる場合じゃないぞ。そりゃ何かって警察・・・だがどうしてザメートフは警察にいないんだ?警察は10時までやってるのに・・・”彼は欄干に背を向けると辺りを見回した。

 

 “ならしょうがない!そうするってもんか!”決然とした調子で言うと、彼は橋を離れ警察署のある方へ向かって歩き出した。その心は空しく荒涼としていた。彼は考えたくなかった。憂愁すら消え、先のやる気、家を出た時“すべてにけりをつける!”などと言わせていたそれは跡形もなく消えていた。完全なる無関心がその空白を埋めていた。

 

 “しょうがない、これが答えだ!――下水路沿いをゆっくりしょんぼり歩きながら彼は思った。――とにかく終わらせよう。なぜなら俺が望むのは・・・解決になるのか、しかし?でも同じ事さ!1アルシン(約70㎝)の空間はあるんだろ――へっ!だが何という幕切れだ!本当に終わりなんだろうか?俺は彼らに言ってしまうのかそれとも言わないのか?その・・・糞ったれ!確かに俺は疲れている。なるべく早くどっかで横になるか座るかしたいもんだ!何より恥ずかしいのは、非常に間抜けに見えることだ。だがそれとてつまらんことだ。やれやれ、何という馬鹿げたことを思い付くのか・・・”

 

 警察署へ行くにはずっと真っ直ぐ行って、二つ目の曲がり角を左に曲がる必要があった。この時警察署はもう目と鼻の先であった。しかし彼は最初の曲がり角まで来ると、立ち止まって少し考え、横町に曲がって迂回し始めた。通りを二つ超えてしまった。――もしかすると何の目的も無かったかもしれない、あるいはもしかすると、せめてあと少しの時間でも引きのばし、時をかせぐためであったかもしれない。彼は地面を見て歩いていた。と突然まるで誰かが彼の耳元で何か囁いたかのようであった。彼は頭を上げると例の建物の前、まさにあの門の前に立っていた。あの夜以来彼はここに来たことはなく、近くを通り過ぎたこともなかった。

 

 抵抗し難い、説明のつかない欲が彼を引っ張って行った。彼は建物内に入り、門下の通路を通り抜けると、右手にある最初の入り口から馴染みの階段で4階に向かって上り始めた。狭い急な階段で非常に暗かった。彼は踊り場に来るたびに立ち止まり興味深そうに辺りを見回した。1階の踊り場の窓枠がすっかり取り外されていた。“あの時はこんなふうになっていなかった。”と彼は思った。そして2階のニコラーシカとミーチカが仕事をしていた部屋。“鍵がかかっている。ドアが新しく塗られている。つまり貸し出されているんだな。”そして3階・・・そして4階・・・“ここだ!”当惑が彼を襲った。扉は開け放たれていて、そこには人がおり、声が聞こえていたのだ。彼はこんな事態を予想だにしていなかった。少し逡巡した後、彼は最後の数段を上って部屋の中に入った。

 

 そこもまた新たな装いに仕上げられつつあって、中には作業員がいた。この状況は彼を仰天させたらしかった。彼はなぜか、あの時彼が残してきたそっくりそのままの場景を、ひょっとすると床の上の同じ場所に横たわっている死体すら目撃することになると想像していたのだ。なのに今壁紙は剥がされ、家具は一切ない。何か変だ!彼は窓際まで突き進み窓敷居に腰をかけた。

 

 作業員は全部で二人だった。二人の若い男で、一人はやや年配、もう一人はずっと若かった。彼らは使い古され破れた以前の黄色い壁紙の代わりに、藤色の花が描かれた白い新しい壁紙を貼り付けていた。ラスコーリニコフはなぜかそれが途轍もなく気に入らなかった。彼はその新しい壁紙を憎々し気に見た。それはまるで何もかもそんな風に変えてしまったことを残念がっているかのようであった。

 

 作業員らはぐずぐずやっていたのだろう、今になって大急ぎで壁紙を巻き、帰り支度をしていた。ラスコーリニコフの出現は彼らの注意をほとんど引かなかった。彼らは何かしら話していた。ラスコーリニコフは腕を組むと耳をそばだて始めた。     

                                                            

 「そいつときたら、俺んとこに朝早く来るのよ」年配の方が若い方に話しかけている。「朝っぱらからしっかり着飾っててさ。言ってやったんだ。“一体何でそんなすましてるんだ。俺の前でなんでそんなぶりっこしてるんだ”と。そいつが言うには“私は、チト・ワシーリイチ、今後、これからはもう完全にあなたのものになりたいの。”だとさ。いやいやもうびっくりだよ!しかしまあ、あの着飾り方ときたら。ジュルナールだね。完全にジュルナールだよ!」 

 

 「おっちゃん、ジュルナールって何だい?」若い方が尋ねた。彼はどうやら“おっちゃん”に弟子入りしているようだった。

 

 「ジュルナールってのはな、おめえよ、沢山の版画のことよ、色の付いたさ。ここの仕立て屋のとこに毎週土曜日、郵便で外国から来んのよ。そりゃまあどう着こなすべきかっつうのを教えてくれるもんだな。男性も女性と同じようにさ。画集のことよ、要するに。男性はいつもだいたい長袖外套を身につけて描かれていて、女性のコーナーじゃ、おめえ、そりゃもうスフレみたいな女が出てさ、お前があり金全部叩いたってまだ足りないぞ!」

「罪と罰」83(2-6)

 「いや」

 

 「馬鹿を言え!」もどかしそうにラズミーヒンが大声を上げた。「お前に何が分かる?お前は自分に責任が持てないだろうが!それにお前はこのことについて何も分かっちゃいない・・・俺は何度となく全く同じように、人とけんか別れしてはまた歩み寄るということをしてきた・・・恥ずかしくなって、それで人のところへ戻って来いよ!だから覚えておけよ、ポチンコーフの建物、3階だぞ・・・」

 

 「いやいや全くこんなふうにしてお前さんは、ラズミーヒンさん、目をかけてやっているという満足感から誰かしらが自分を痛めつけるのを許してやっているんだろうね。」

 

 「誰をだって?俺を!空想に過ぎないとしてもお前の鼻をねじ切るぞ!ポンチコーフの建物、47番、官吏バーブシュキンの住居だぞ・・・」

 

 「行かないよ、ラズミーヒン!」ラスコーリニコフは回れ右をして歩き出した。

 

 「賭けてもいい、お前は来る!」彼の背中に向かってラズミーヒンは叫んだ。「そうじゃなきゃお前は・・・そうじゃなきゃお前とは絶交だ!待てよ、おい!ザメートフは向こうか?」

 

 「向こうにいる。」

 

 「会ったのか?」

 

 「会った。」

 

 「話もした?」

 

 「話した。」            

 

 「何について?いやいや、お前のことなんか知った事か。まあ言うな。ポンチコーフの47番バーブシュキン、覚えておけよ!」

 

 ラスコーリニコフはサドーバヤ広場まで歩いて行くと角を曲がった。ラズミーヒンは考えに耽りながら彼の後ろ姿を目で追った。仕舞に手を振って建物の中に入ったが、階段の途中で立ち止まった。

 

 “くそったれ!”ほとんど聞こえるようにして彼は続けた。“まともに話している。まるで・・・全く俺も馬鹿だ!頭のおかしい奴はまともにはしゃべらないだって?ゾーシモフはまさにこのことを少し不安に感じているようだったじゃないか!”彼は指でおでこを叩いた。“もしも・・・なんで俺は奴を今一人にさせることができるんだ?身投げしちまうかもしれん・・・くそっ、しくじった!絶対だめだ!”そうして彼はラスコーリニコフを追って元来た道を走り出したが、最早影も形もなかった。彼は唾を吐くと、なるべく早くザメートフを質問攻めにしようと“クリスタル宮殿”に早足で戻った。

 

 ラスコーリニコフは真っ直ぐ――橋に向かうと、その中央、欄干脇で立ち止まり、両肘でもたれかかって遠くの方を見始めた。ラズミーヒンと別れると彼は相当衰弱していたので、どうにかここまで辿り着いたといった体であった。彼はどこかに座るか横になりたくなった。もう通りで構わなかった。川の方へ体を傾けると、彼は見るともなしに見た。一日の終わりのバラ色に染まった夕焼けの照り返しを。深まった夕暮れに黒ずむ家並みを。遠くの一つの小窓を。それはどこか左岸の屋根裏部屋にあり、一瞬窓に差し込んだ太陽の残光のせいで、まさに炎の中のごとく燃え輝いていた。下水路の黒ずんだ水を。そしてこの水に見入っているようだった。仕舞に彼の目の前で何かしら赤い諸々の輪が回り始めた。建物が回り、通行人、岸壁、馬車――これらすべてが回り始め、輪になっておどり出した。突然彼はびくっとなった。彼を意識消失から再び救出したのは一つの奇妙でぼやっとした幻だったのかもしれない。彼は、誰かが彼の脇、右側に並んで立っているのを感じた。彼が目を向けると――女性がいるではないか。背の高い、頭にスカーフを巻いた、黄色くて細長いやつれた顔をした、赤みを帯びて窪んだ目をした女性が。彼女は彼の方を真っ直ぐ見ていたが、明らかに何も見えていなかったし、人だと認識してもいなかった。突然彼女は右ひじを欄干につくと、右足を上げ足を柵の外に放り出した。続いて左足を。そして下水路に飛び込んだ。汚水がばしゃんと音を立て一瞬にして犠牲者を飲み込んだ。だがすぐ身投げした女は浮き上がり、音も立てずに下流へと流されて行った。頭と両足は水に浸かり、背中が上になり、落ちた衝撃で位置がずれたスカートは水面上で膨らみ、ちょうどクッションのような格好になっていた。

 

 「身投げしたぞ!身投げしたぞ!」多数の叫び声が上がった。人々が殺到し、両岸は見物人で埋め尽くされていった。橋上のラスコーリニコフの周囲には人だかりができ、群がって彼を後ろから圧迫していた。

 

 「助けて、あれはうちのアフロシニユーシカなんです!」どこか遠くないところで女の哀れな叫び声が聞こえた。「助けて、助けてください!親切な方々、救ってください!」

 

 「ボートだ!ボートだ!」群衆の中から叫び声が上がった。

 

 だがボートはすでに必要なかった。巡査が下水路に下りる小階段を駆け下り、外套と長靴を脱いで水の中に飛び込んだのだ。事は易々と運んだ。身投げした女は下り口からすぐのところを流されており、巡査は右手で女の服を掴み、左手で同僚が差し出した竿につかむことに成功した。身投げした女はすぐさま引っ張り上げられた。その体は御影石でできた敷石の上に寝かされた。彼女は間もなく意識を取り戻した。少し上体を起こして座ると、くしゃみやら鼻からふーふー息を出すやらを始めた。うつろな様子で濡れたワンピースを手でこすりつつ。彼女は何もしゃべらなかった。

「罪と罰」82(2-6)

 彼は外に出た。ある激しいヒステリックな刺激のため全身が震えていた。そこにはしかし耐え難い愉悦の一部が存在していた。――とはいえ気分は沈み、恐ろしく疲れていた。その顏は歪み、何かしらの発作の後のようであった。疲労が加速度的に増していった。力が生まれ、今突然最初の衝動すなわち最初のひりひりするような感覚を伴って彼の元にやって来た。そしてそれは感覚が弱まるにつれ、同じように急速に弱まっていた。

 

 一人残っていたザメートフは、さらに長い間同じ場所に居座り物思いに耽っていた。ラスコーリニコフは心ならずも、ある点に関する彼の全考えを一変させ、最終的にその意見を定めてしまった。

 

 “イリヤ・ペトローヴィチは木偶の坊だ!”――彼はそう結論を下した。

 

 ラスコーリニコフが通りに出るドアを開けるやいなや、突然、ちょうどポーチのところで、入って来たラズミーヒンと鉢合わせた。二人はあと一歩の距離だというのにお互いを見ていなかったので、危うく頭がぶつかりそうになった。しばらく彼らはお互いに相手の様子をうかがっていた。ラズミーヒンはこれ以上ないほどに驚いていたが、突然怒りが、本物の怒りが彼の目の奥でめらめらと燃え始めた。

 

 「お前こんなとこにいたのかよ!」彼はあらん限りの声で叫んだ。「寝床から抜け出して!俺はソファの下まで探したんだぞ!屋根裏部屋にだって上がったし!ナスターシャをお前のせいであやうくひっぱたくところだったんだからな・・・で当人はほれこんなところにいるときた!ローチカ!これはどういうことだ!洗いざらい本当のことを話せ!白状しろよ!聞いてんのか?」

 

 「それはあんたたち全員が僕には死ぬほど耐え難くなったということで、僕は一人になりたいのさ。」ラスコーリニコフは落ち着き払ってそう答えた。

 

 「一人だと?まだ歩くこともできない、まだ面が真っ青、しかも息苦しそうにしてるって時にか!あほか!・・“クリスタル宮殿”で何してたんだ?すぐ白状しろ!」

 

 「放っておいてくれ!」ラスコーリニコフはそう言って脇を抜けようとした。これでラズミーヒンは完全に切れた。彼はラスコーリニコフの肩を強く掴んだ。

 

 「放っておけだと?よくも“放っておけ”だなんて言えるな?お前本当に分かっているのか、俺が今お前をどうしようとしているのか?とっつかまえて、ふんじばって、脇に抱えて家に帰って、鍵かけて閉じ込めておくのよ!」

 

 「聞けよ、ラズミーヒン」ラスコーリニコフは静かに、そして見たところ落ち着き払った様子で話し始めた。「俺がお前のお助けなんて望んでいないのが、本当に見て分かんないのか?何もすき好んでこんな奴に目をかけてやることもないだろ・・・こうしたことに唾を吐きかけるような奴にさ?しかもこういうことがひどく負担になっている奴に?いったい何のためにお前は俺を病気の初期の段階で探し出したんだ?俺はもしかすると大層喜んで死んでたかもしれないんだぜ?お前は俺を苦しめている、お前にはもう・・・うんざりだ、と今日言ったのじゃ不十分なのかよ!実は人を苦しめたいんだろ!間違いなくこういうことはみな俺の回復の深刻な妨げになっているぞ。俺を絶えずいらいらさせているんだから。

 

 ゾーシモフはさっき出てったじゃないか、俺をいらいらさせないように!構わないでくれよ、頼むからさ、お前も!それにだ、お前はどんな権利があって俺を拘束するんだ?お前には、俺が今や完全にまともな頭で話をしているのが分からないって言うのか?お前が俺に付きまとわないで放っておくようにするにはどうすればいいのか教えてくれ、頼むから。たとえ恩知らずと言われようと、下劣と言われようと、とにかくみんな放っておいてくれ、お願いだから、放っておいてくれ!放っておいてくれ!放っておいてくれ!」

 

 これからすべての毒をぶちまけられると思っておだやかに始めたものの、最後は先のルージンとの時のように、息切れして無我夢中の状態になった。

 

 ラズミーヒンは立ったまましばらく考えると手を放した。

 

 「とっとと消え失せろ!」ほとんど物思いにふけりながら彼は小さな声で言った。「待てよ!」ラスコーリニコフがその場から動こうとした時、突然彼が吠え出した。「俺の言うことを聞け。言っておくがな、お前さんたちは全員一人残らず口だけのほらふき野郎だ!苦しみが始まれば、お前さんたちはそのことで頭がいっぱいになっちまうのさ!そんな時でさえ他の作家をパクッてな。お前さんたちには自らの足で立った生活というものがこれっぽっちもないんだ!鯨の脂からお前さんたちは出来ていて、血の代わりに乳清が流れているのさ!お前さんたちのような奴を俺は誰一人として信じない!お前さんたちがまずやるべきことは、あらゆる状況において、人間らしくなくふるまうということだ!待てっ!」一層激昂して彼は叫んだ。ラスコーリニコフがまた立ち去ろうとしているのを認めたためだ。「最後まで聞け!なあ、俺のとこで今日引っ越し祝いで人が集まるんだが、ひょっとするともう今じゃ来ているかもしれん、そう、で俺は向こうに叔父を残してきた、―今は立ち寄っただけだ―来客を迎えるためにな。さてそこでだ、もしお前が馬鹿野郎でなければ、低俗な馬鹿じゃなく、大馬鹿野郎じゃなく、外国からの翻訳でなければ・・・なあ、ロージャ、思い切って言わせてもらうがな、お前は頭はいいかもしれないが、馬鹿野郎だ!それでもしお前が馬鹿野郎でないのなら、今日俺のところに来て、夜を過ごした方がいいぞ。無駄に外を歩き回ったりするより。外に出って、することなんか何もないだろ!お前用にそりゃもう柔らかい肘掛け椅子を用意しておくからさ、大家さんのとこにあるんだ・・・茶に、仲間・・・いやそうじゃないな、それならソファーベッドに寝かせよう。とにかく俺たちと一緒に過ごせよ・・ゾーシモフも来るぞ。寄ってみないか?」

「罪と罰」81(2-6)

 「いやー随分とまあ恐ろしいことを言いますね!」笑いながらザメートフが言った。 「ただしそれはみなただ言葉の上でのことにすぎなくて、実際にはまあ、うまくいかないでしょうね。言わせてもらいますが、私の考えでは、僕らは言うに及ばず、たとえ経験ある胆の座った人間でも自分自身を当てにすることはできませんよ。何も遠いところを探さなくたって身近にこんな例が。我々の行政区で老婆が殺されました。肝の座った大した奴のようです。真昼間にあらゆるリスクを冒して、一つの奇跡によって難を逃れたんですから。――でもやはりその手は震えました。盗むことはできず、耐え切れませんでした。状況から明らかです・・・」

 

 ラスコーリニコフはあたかも侮辱を感じたかのようであった。

 

 「明らかだって!それじゃそいつを捕まえてくださいよ。やってみてくださいよ。すぐに!」彼は大声を出した。相手の不幸を内心喜びつつザメートフを挑発した。

 

 「そりゃまあ。捕まるでしょう。」

 

 「誰によって?あなたが?あなたが捕まえる?無駄に跳ね回ることになりますよ!だってあなた方にとって大事なポイントは男が金を使っているかどうかですよね。つまり金が無かったのに、突然金を使い始める。その男じゃないはずがないと。それならどんな子供だってあなたを騙せるでしょうね。その気になれば!」

 

 「そこなんですよ。彼らはみなやはりそうするんですよ。」ザメートフが応じた。「計画的に殺す、生活がひどくてそうせざるを得ない、その後すぐ居酒屋で御用となる。金使いがもとで彼らは逮捕される。みながみなあなたのように賢いわけじゃない。あなたはもちろん居酒屋になんて行かないでしょ?」

 

 ラスコーリニコフは眉をひそめてザメートフの方をじっと見た。

                   

 「あなたはどうやら味を占めて、僕がそうした場合どう行動するか知りたくなったのでは?」不満気に彼が尋ねた。

 

 「そうしたいものですね。」ザメートフは毅然とした真面目な調子で答えた。彼の話し方、目付きはあまりにも真剣になっていた。

 

 「とても?」

 

 「とても。」

 

 「いいでしょう。僕ならこうしますね。」そう始めたラスコーリニコフは、また突然自分の顔をザメートフの顔に近づけ、また彼をまじまじと見つめ、またささやき声で話すので、今回ザメートフは身震いすらした。「僕ならこうします。僕なら金と物を取って、そこから離れるなり、すぐに、どこにも寄らず、どこかしらへ歩き出します。ひっそりとした、ただ塀だけがある、ほとんど人気のない場所に。菜園とかそんなような場所に。そこには、その囲まれた場所にはあらかじめ目星をつけておいた、何かこんな石がある。大体1から1.5プードで、どこか隅、塀の脇にあって、建物を建てた時からあるかもしれないそんな石が。この石を少し持ち上げると、その下に小さな窪みがなければなりません。他ならぬこの窪みにすべての物と金を入れるんですから。置いたら石をかぶせる。前と同じ状態になるように。足で踏みつける。そしてその場を離れる。1年でも、2年でも取りに来ない。3年取りに来ない。さあ探してください!確かにあったが、すべて消えてしまった!」

 

 「いかれてる。」ザメートフはなぜだかまたほぼささやき声でそう口にし、なぜだか突然ラスコーリニコフから離れた。彼の目がらんらんとし始めたのだ。顔面蒼白になり、上唇は震え、それは跳ねるような動きになった。彼はできるだけザメートフの方に身を傾け、唇を僅かに動かし始めた。声には出していなかった。そんな状態が約30秒間続いた。彼は何をしているのか分かっていたが、自分を抑えることはできなかった。身も凍るような言葉が、ドアにかかったあの時のかんぬきのように、彼の唇の上でしきりに飛び跳ねていた。さあもう口が滑る。さあもう抑えられない。さあもう言葉になって出てくる!

 

 「ところでもし僕が老婆とリザヴェータを殺したのだとしたら?」突然彼はそう言うと我に返った。

 

 ザメートフはびくびくしながら彼の方に目をやるとテーブルクロスのように真っ青になった。彼の顔は笑顔でひん曲がっていた。

 

 「そんなことが本当に有り得るんですか?」かろうじて聞き取れる声で彼は言った。

 

 ラスコーリニコフは意地の悪そうな目付きで彼の方を見た。

 

 「正直に言ってください。信じたでしょ?え?違いますか?」

 

 「いえ全く!今はもう前よりずっと信じていませんよ!」あわててザメートフが言った。

 

 「とうとう嵌りましたね!小すずめが捕まった。つまり以前は信じていた。今はもう“前よりずっと信じていない”んですから?」

 

 「そんなことは全く無い!」ザメートフは叫んだ。明らかに困惑していた。「あなたはこれがために僕を脅していたんですか、ここに誘導するために?」

 

 「それなら信じていないんですね?ではあなた方は僕のいないところで何を話し始めたんですか、僕があの時署から出て行った時?では何のために火薬中尉は僕が失神した後尋問したんでしょう?おい君」彼は立ち上がりつつ帽子を取ると大声で給仕を呼んだ。「いくらだい?」

 

 「全部で30コペイカでございます。」と給仕は駆け寄りつつ答えた。

 

 「でこれは君のウォッカの分としてもう20コペイカ。随分とまあ金があること!」彼は紙幣の握られた震える手をザメートフの方に伸ばした。「赤色のと青色のとで25ルーブル。いったいどこから?新しい服はどこから来た?金なんか全然なかったのはよくご存知ですもんね!家主にはもう尋ねたんでしょう・・・さっ、もう十分だ!Assez causé![おしゃべりが過ぎた!(フランス語)]最高に愉快でしたよ!・・」

「罪と罰」80(2-6)

 とうとう彼はそう言った。ほとんど囁き声で。自分の顔をザメートフの顔にこれでもかと近付けて。ザメートフは彼の顔をまじまじと見つめていた。身動きもせず、自分の顔を相手の顔から離すこともせず。後になってザメートフに何より奇妙に思われたことは、きっかりまる1分彼らの沈黙が続き、きっかりまる1分彼らがそうして互いに見つめ合っていたことであった。

 

 「まあいい、何を読んだんです?」戸惑ってじりじりした彼は突然大声を出した。「僕にとって何だって言うんだ!一体そこに何が書いてあったって言うんです?」

 

 「それはほら例のあの老婆ですよ。」ラスコーリニコフは同じようなささやき声で続けた。ザメートフの激発に動揺した様子はなかった。「例のあの、その人のことについて、覚えているでしょ、署で話が始まった時、僕はそう失神してしまった。どうです、もう分かっているんじゃないですか?」

 

 「一体何だって言うんです?何を・・・“分かっている”って?」そう言ったザメートフはほとんど狼狽えていた。

 

 真剣そのもので揺らぎの見られなかったラスコーリニコフの表情が一瞬で一変した。突然彼はまた先程のように発作的にげらげらと笑い出した。まるで自分で自分を抑える力が全く無いかのように。すると一瞬、彼の念頭に最近のある一時のことが非常にはっきりした感覚に至るまで蘇った。彼はドアの後ろに立ち、手には斧、錠前が目の前で踊っている。彼らはドアの向こうで罵り合い、押し入ろうとしている。だが彼は突然彼らに向かって叫び出したくなる。罵り合いたくなる。舌を出していらつかせたくなる。笑いたくなる。げらげら笑いだしたくてたまらなくなる!

 

 「あなたは頭がおかしくなっているか、あるいは・・・」そう言ったザメートフはそこで中断してしまった。まるで彼の頭に突如閃いた考えに打ちのめされたかのようであった。

 

 「あるいは?あるいは何です?ほら、何?さあ、言ってみなさい!」

 

 「何でもありませんよ!」いらついているザメートフが答えた。「みなくだらないことだ!」

 

 二人は黙った。いきなり始まった発作的な馬鹿笑いの後、ラスコーリニコフは突然物思いに耽り、沈痛な面持ちになった。彼は肘をテーブルにつき、手で頭を支えた。彼はザメートフのことをすっかり忘れてしまったらしかった。沈黙はかなり長い間続いた。

 

 「どうしてお茶を飲まないんですか?冷めますよ。」ザメートフが口を開いた。

 

 「え?何?お茶?・・まあそうだね・・・」ラスコーリニコフはコップから一口飲むとパンの一切れを口の中に入れた。すると突然、ザメートフの方に目を遣ると、すべてを思い出したらしく、まるで気が晴れたような様子だった。この同じ瞬間、彼の顔には以前の馬鹿にしたような表情が戻った。彼はお茶を飲み続けた。

 

 「今はくだらないペテンがやたら増えましたね。」ザメートフが言った。「ついこの前“モスクワ通報”で読んだんですけど、モスクワで貨幣偽造集団が全員まとめて捕まったそうです。完全に組織だったものでした。札を偽造していたんです。」

 

 「えっ、そりゃもう大分前の話だ!僕はもう一月前に読みましたよ。」落ち着いてラスコーリニコフは答えた。「するとこうした連中があなたの意見ではペテン師ということですか?」彼は薄笑いを浮かべながら言い足した。

 

 「ペテン師ではないとでも?」                                                  

 

 「こんなのが?こりゃ子供、青二才でペテン師なんかじゃないよ!50人もの人間がこんな目的のために集まっている!こんなことあり得るのかい?3人でも多いくらいだ。その場合は各々が自分自身より仲間をもっと信頼していなければならないんだけどね!そうでないと一人が酔って口を滑らせりゃ、すべておじゃん!青二才なのさ!当てにならない人間を雇って銀行で札を換金させている。そんな事初めて会うような人間に任せるかい?まあいい、仮に青二才どもとうまくやれたとしよう。各々が100万ずつ手に入れたとしよう。でその後は?残りの人生は?各人は他人を当てにして残りの全人生を生きなければならない!首吊って死んだ方がよほどましさ!だが彼らは換金の仕方さえ知らなかった。銀行で換金しようとして5千受け取った。すると手がぶるっと震えた。4千までは数えたが、5千までは数えずに受け取った。ただもうポケットに突っ込んでできるだけ早く逃げ去りたい一心で。さあ、それが疑惑を呼んだ。一人の馬鹿のせいですべてが駄目になった!こんなこと本当にあり得るのかい?」「手が震えたことが?」ザメートフが引き取って言った。「いや、それはあり得ることだよ。うん、僕としては完全に確信してるが、それはあり得ることなんだ。耐えられない時もあるのさ。」

 

 「こんなことが?」

 

 「君なら耐えられるだろうって?そうかな、僕なら無理だね!100ルーブルの報酬でそんなとんでもないとこに!偽札を持って――いったいどこに――銀行へ、そうしたことはお手のものって場所に。無理だ、僕なら動揺してしまうな。君は動揺しない?」

 

 ラスコーリニコフは突然また猛烈に“あっかんべー”をしたくなった。戦慄が一分おきに背中を走っていた。

 

 「僕ならそんな風にはしないね。」彼は遠回しに始めた。「僕ならまあこんな風に交換するかな。最初の千を大体4回ばかり最初から最後まで数える。一枚一枚に目を通して。そして次の千に取り掛かる。数え始めて半分まで行ったら、任意の50ルーブルを取り出し、光にかざして見る。そしてそれをひっくり返してまたかざして見る。――偽札かもしれないだろ?僕は言う。“心配なんですよ。私の某親類が25ルーブルをそんなことでつい最近失いましてね。”そしてその話をここで語って聞かせる。そして三つ目の千を数え始めた時に――いけない。すみませんが、僕はどうやらその、二つ目の千を数えている時、七つ目の100ルーブルを間違って数えたかもしれません。その可能性が高いです。三つ目を止めにして、また二つ目を数えます。――こんな風にして計5回。で終わったら、五つ目と二つ目から一枚ずつ紙幣を抜き出して、また光にかざす、またあやしい、“交換してください”――事務員をくたくたにさせると、彼はもうどうやったら僕を厄介払いできるのか分からない!ようやくすべてを終え、立ち去ろうとドアを開ける――しまった。すみません。何かしらについて尋ねたくて、何かしらの説明を聞きたくてまた戻ってきました。――まあこんな具合に僕ならするな!」

「罪と罰」79(2-6)

 「かしこまりました。これが今日の分でございます。ウォッカも飲まれますか?」

 

 古い新聞と茶が出てきた。ラスコーリニコフは腰を落ち着けて探し始めた。“イズレル――イズレル――アツテキ――アツテキ――イズレル――バルトラ――マッシモ――アツテキ――イズレル・・・ちっ、くそっ!おっ事故欄だ。階段から転落――酒が原因で町人焼け死ぬ――ペスコフ地区で火災――ペテルブルク地区で火災――さらにペテルブルク地区で火災――さらにペテルブルク地区で火災――イズレル――イズレル――イズレル――イズレル――マッシモ・・・あっこれだ・・・”

 

 彼はとうとう探し求めていたところのものを発見すると読み始めた。新聞の行が彼の眼前で跳びはねていた。それでも彼は全ての“消息”を終わりまで目を通すと、むさぼるようにして次の号の最終追加分の検索に取り掛かった。ページをめくる彼の手は、発作的な焦りのために震えていた。突然誰かが彼のすぐ近くに、彼のテーブルに座った。彼はちらと見た――ザメートフ、まさにあのザメートフ、しかも同じ格好、宝石入りの指輪をはめ、鎖を垂らし、ポマードが塗られた黒い縮れ髪は分けられ、粋なベストに、いくらか擦り切れたフロックコート、それに汚れた下着という格好の彼であった。彼は陽気で、少なくとも非常に陽気で善良な笑みを浮かべていた。浅黒い彼の顔はシャンパンを飲んだせいでやや赤くなっていた。

 

 「えっ!あなたがここに?」彼はとまどいつつも、ずっと前からの知り合いであるかのような調子でしゃべり始めた。「つい昨日ラズミーヒンが俺に言ったんだぜ。あなたがまだ正気に戻ってないって。こりゃおかしなこった!だっておれはあなたのとこに行って・・・」

 

 ラスコーリニコフは彼が近付いて来るのを知っていた。彼は新聞を脇に置くとザメートフの方へ向き直った。彼の唇には薄笑いが浮かんでいた。そして何かしら今までに見たことのないぴりぴりした焦燥がこの薄笑いに現れていた。

 

 「あなたが来ていたのは知っていますよ。」と彼は答えた。「伺っています。靴下を捜索していたと・・・。ところでご存知ですか。あなたに夢中になっているラズミーヒンが、あなたと彼でラビーザ・イヴァーノヴナのとこへ行ったと言っているのを。ほらその人のことであなたがあの時一生懸命になって、火薬中尉に目配せしているのに、彼は全く気付いていなかった。覚えていますか?まるで分かってないようでしたよ――あからさまなのに・・・ねえ?」

 

 「全くとんでもないお騒がせ男だな!」

 

 「火薬さんが?」

 

 「いや、あなたの友人のラズミーヒンさ・・・」

 

 「ところでいい暮らしをしてるんですね、ザメートフさん。随分とまあいいところに無料で入れるんだから!今あなたにシャンパンを注いだのは誰です?」

 

 「いやそりゃ私たちは・・・飲みはした・・・注いだだって?!」

 

 「謝礼の類!利用できるものは何でも利用する!」ラスコーリニコフは笑い出した。「問題ないですよ、お坊ちゃま、問題ない!」ザメートフの肩を叩いて彼は言葉を続けた。「面当てじゃないんですよ、“みんな親愛の情からくる冗談”として言ってるんだから。ほらちょうどあのあなたの同僚が言っていたように。彼がミーチカをぶん殴っていた時に、ほら例の婆さんの件で。」

 

 「どうしてあなたがそれを?」

 

 「もしかすると僕はあなたの同僚より知っているかもしれませんよ。」

 

 「何かあなたちょっと変だぞ・・・きっとまだ相当悪いんだ。勝手に出てきちゃって・・・」

 

 「あなたには僕が変に思われるんですか?」

 

 「ええ。こりゃなんです。新聞を読んでいるんですか?」

 

 「新聞ですよ。」                                        

 

 「火事についていろいろ書いてあります・・・」「いや、僕が読んでいるのは火事についてではない。」この時彼は謎めいた視線をザメートフに向けた。人を小馬鹿にしたような笑いが再び彼の唇を歪めた。「違うんですよ。僕が読んでるのは火事についてではないんです。」ザメートフに目配せしつつ彼は続けた。「白状しませんか、お兄さん、僕が何を読んでいたか気になってしょうがないってことを?」

 

 「全く気になりませんね。なんとなく尋ねただけです。聞いちゃだめってことじゃないでしょ?何をあなたはずっと・・・」

 

 「まあ聞いてください。あなたは教育を受けた教養ある人、ですよね?」

 

 「ギムナジウムに6年間通ってましたよ。」ザメートフはいくらか誇らしげにして答えた。

 

 「6年間!いやまったく君は可愛らしいやつだ!髪を分けて、指輪をはめて、お金持ちってこった!やれやれ、とんだお坊ちゃまだ!」この時ラスコーリニコフは発作的にげらげら笑い出した。ザメートフの顔をまともに見つつ。彼はぱっと脇へ退いた。それは侮辱を感じたためではなく、非常に驚いたためであった。

 

 「ふー、いかれてる!」ザメートフはひどく真面目な調子で繰り返した。「僕には、あなたがまだうわ言を言ってるように思えますね。」

 

 「うわ言を言ってる?出まかせを言うじゃないか僕ちゃん!・・それで僕がおかしいっていうのかい?さて、であなたは僕に関心がある、ん?どうです?」

 

 「関心はありますね。」

 

 「まあつまりその、僕が何について読んでいたか、何を捜していたかについて?ほらこれ全くどれだけ持って来させたんだ!疑わしい、ですね?」

 

 「まあその続けてください。」

 

 「全身耳?」

 

 「そりゃ一体どういうことです?」

 

 「それについては後で言うとして、今は、ザメートフちゃん、あなたに言明しておきます・・・いや、こう言った方がいいか“告白します”・・・いや、それも違うな。“僕は証言して、あんたはそれを聞き取る”――これだ!ということで証言します。読んでいました、関心がありました・・・探していました・・・必死になって探していました・・・。」ラスコーリニコフは瞬きして待った。「必死になって探していたのは・・・そのためにここに立ち寄ったんです。・・・老婆の、官吏の妻の殺害についてです。」