「罪と罰」85(2-6)

 

 「このペテルブルグに一体何が無いって言うんすか!」熱っぽく若い方が叫んだ。「父ちゃん母ちゃんをのぞきゃ何だってありますよ!」

 

 「それ除きゃ、おめえよ、何でもあるわな。」教え諭すような態度で年配の方が同意した。

 

 ラスコーリニコフは立ち上がって別の部屋に行った。そこは以前、小さな長持ち、ベッドや整理箪笥が置かれていた部屋だった。家具のないその部屋は彼にはひどく小さく見えた。壁紙は以前のままだった。壁紙の隅に、イコン用戸棚が置かれていた跡がはっきりと示されていた。彼は一瞥をくれると元いた小窓に戻った。年配の作業員は横目で注意深く見ていた。」

 

 「何でございますか?」彼が突然ラスコーリニコフに向かって尋ねた。

 

 答える代わりにラスコーリニコフは立ち上がって玄関に出ると、呼び鈴をぐいと引っ張った。まさにあの呼び鈴。あのブリキの音!彼は2回、3回と鳴らした。彼は耳をそばだてて思い出そうとした。以前の、つらく恐ろしい、恥を恥とも思わぬ感覚がどんどんはっきり生き生きと思い出されてきた。彼は鈴が鳴るたびにびくっとなった。そして彼はどんどん愉快になっていった。

 

 「一体何の用だ?何者だ?」彼の方に出て行くと作業員が声を張った。ラスコーリニコフは再びドアの内に入った。

 

 「部屋を借りたいと思ってね。」と彼は言った。「見さしてもらってるよ。」

 

 「夜中に部屋を借りようとする人なんていません。それに屋敷番と来なきゃだめです。」

 

 「床が洗い流されているな。ペンキを塗るつもりかい?」ラスコーリニコフは続けた。「血はなかったかい?」

 

 「血って何の?」

 

 「ここで老婆がその妹と一緒に殺されたんだ。そこには大きな血だまりがあった。」

 

 「お前一体何者だ?」動揺する作業員が叫んだ。

 

 「僕?」

 

 「そうだよ。」

 

 「知りたいってのかい?・・警察署に行こう。そこで話すよ。」

 

 作業員たちは不審の目を彼に向けた。

 

「出る時間だ、旦那、ぐずっちまった。行くぞ、アリョーシカ。鍵をかけないと。」と年上の作業員が言った。

 

 「じゃあ、行こうか!」ラスコーリニコフは平然と答えると、先頭に立ってゆっくり階段を下りて行った。「おい、屋敷番!」門の下に出ると彼は大声で言った。