「罪と罰」36(1−6)

 ラスコーリニコフは途轍もなく動揺していた。もちろんこんなことはみな極ありふれた極頻繁に交わされる、すでに何度も彼が耳にした、形式だけは別で異なるテーマでの、若者の会話、考えである。だがなぜこの今に、彼が他ならぬあのような会話、あのような考えを最後まで聞くことになったのだろう、彼自身の頭の中で生じたばかりの時に・・・そっくり同じ考えが?またなぜこの今、彼が老婆から自身の考えの萌芽を得たばかりの時に、ちょうどこのタイミングで老婆に関する会話に出くわすのか?・・いつも彼に奇妙に思われていたのはこの一致であった。この取るに足らない旅籠屋での会話は、今後の展開において彼に対し絶大な影響力を持った。それはあたかもその時本当にある種の定め、教示があったかのようであった・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 センナヤ広場から戻ると、彼はソファにどっと腰を下ろし、丸一時間じっと座り続けた。そのうちに日が暮れた。ろうそくは彼のところになかったし、明かりを灯すという考えも彼の頭にはなかった。彼が決して思い出すことができなかったのは、この時何かしらのことについて考えていたのかどうか、ということである。仕舞に彼はさっきの病的な興奮、悪寒を感じると、ソファの上では横になることもできる、ということに満足そうな様子で気付いた。間もなく深い鉛のような眠りが彼の上にのしかかった。あたかも押しつぶさんとするばかりであった。

 彼は尋常でない程長いこと眠り、夢は見ていなかった。ナスターシャが翌朝10時に彼の元へ来て、やっとのことで彼を揺さぶり起こした。彼女は彼にお茶とパンを持って来てくれた。お茶はまた出がらしで、また彼女の私物の急須に入っていた。

 「全くよく眠ること!」彼女は憤激して大声を出した。「この人はいっつも寝てばっかり!」

 彼はなんとか少し上体を起こした。頭痛がしていた。彼は立ち上がりかけたが、自室の小部屋の中でくるりと向き直ると、再びソファの上に崩れ落ちた。

 「また眠る気!」ナスターシャは叫んだ。「何、あんた病気なの?」

 彼は何も答えなかった。

 「お茶は、欲す?」

 「後で」と彼が辛うじて口に出したのは、再び目を閉じ壁の方に向きを変えながらであった。ナスターシャは彼を見下ろすようにしてしばらく立っていた。

 「本当にもしかしたら病気かも」そう彼女は言うと、くるりと回り出ていった。

 彼女が再びやって来たのは二時でスープを持ってであった。彼はさっきのように寝転がっていた。お茶は手付かずのままであった。ナスターシャは侮辱さえ感じ、悪意を持って彼を小突きだした。

 「どんだけ眠るつもりなの!」そう叫んだ彼女は不快そうに彼の方を見ていた。彼は少し上体を起こし座る姿勢を取ったが、彼女には何も答えず地面を見つめていた。

 「病気なの、それとも違うの?」そう尋ねたナスターシャはまたしても返事をもらえなかった。

 「外に出たらいいでないの」と彼女が言ったのは、しばらく沈黙した後であった。「いい風に当たれるんでない。食べるつもりあるの?」

 「後で」と彼は弱々しく言うと「出てってくれ!」そして手を振った。

 彼女はもうしばらく立ったままでいたが、憐れそうに彼の方を見ると出て行った。

 数分後彼は視線を上げ長いことお茶とスープを見ていた。その後パンを手に取り、スプーンを手に取ると食べ始めた。