「罪と罰」60(2−3)

 ラスコーリニコフはびくびくしながら緊張して周囲の観察を続けていた。その間にラズミーヒンは彼の近くのソファに席を移し、熊みたいに不器用なやり方で彼の頭を左手で抱えると、自分で起き上がることができたかもしれないのにも関わらずだ、右手でスープのスプーンを彼の口元へ持って行ってやった。彼がやけどしないようあらかじめ何度かそれに息を吹きかけた後で。だがスープは温めたばかりであった。ラスコーリニコフはむさぼるようにして一杯のスプーンを飲み干した。続いて二杯、三杯と飲んだ。しかし数杯やるとラズミーヒンは突然手を止め、これ以上についてはゾーシモフに相談してみなければならないと説明した。

 ナスターシャがビール2本を持って入ってきた。
 
 「お茶は要る?」

 「欲しいね。」

 「さあお茶も早くしてくれよ、ナスターシャ、なぜってお茶に関してはね、医学の知識がなくても問題ないと思うんだ。それはともかくお待ちかねのビールだぞ!」彼は自分の椅子に席を移すとスープと牛肉を引き寄せ、まるで三日も食べていないかのような食欲で食べ始めた。

 「僕はね、ロージャ、君の所でなら今や毎日こんなふうに食べられるんだぜ。」牛肉で一杯になった口が許す限りにおいて彼はもぐもぐつぶやいた。「これはみんなパーシェンカが、君の大家さんがさ、あれこれ気を使って心から僕に敬意を表してくれているんだ。もちろん僕は無理に頼んでなんかないし、そりゃ反対するはずもないよ。や、とうとうナスターシャがお茶を持ってきたぞ。随分早いこった!ナスターシャちゃん、ビール飲む?」

 「全くこのお調子者が!」

 「ならお茶は?」

 「お茶ならまあいいか。」

 「注いでくれよ。待って、僕が君に注ぐよ。席について。」

 彼はすぐさま準備を整え注いでやった。それからまた別の茶碗に注ぐと、自分の朝食をほったらかしにして再びソファに席を移した。先のように彼は左手で病人の頭を抱え、上体を少し起こすと、ティースプーンでお茶を飲ませ始めた。今度も特別熱心にスプーンに息を絶えず吹きかけながら。まるでこの息を吹きかけるという過程にこそ病気を治す最も重要にして助けとなる点が存在しているかのようであった。ラスコーリニコフは黙ったまま抵抗しなかった。彼は自分のうちに、上体を起こし他人の助力など一切なくてもソファの上に座り、しかもスプーンや茶碗を保持するくらい手の自由が効くばかりか、さらには歩くことすらできるかもしれない、そういった力が十分過ぎるほどあると感じていたにも関わらずだ。だがある奇妙な、ほとんど獣のようなずる賢さで突然彼の頭に考え――時がくるまで自分の力を隠し、身を潜め、必要とあらばまだ十分理性がはっきりしていないふりまでして、実際には耳を澄ましてここで一体何が起きているのか探り出す――が浮かんだ。しかしながら彼は自分の嫌悪を制御できなかった。お茶の入ったスプーンを10杯ばかりすすると、彼は突然頭を解放し、スプーンを得手勝手に押しやると再び枕の上に身を横たえた。今彼の頭の下には本物の枕――綿毛入りで清潔なカバーの付いた――が確かに置かれていた。彼はこのことにも気付き記憶に留めておいた。