「罪と罰」62(2−3)

 ラズミーヒンは借用証書を取り出してテーブルの上に置いた。ラスコーリニコフはそれに一瞥をくれると一言も発せず壁の方を向いてしまった。これにはラズミーヒンも不快になった。

 「分かってるぞ、ロジオン」彼は1分後に口を開いた。「またブチ切れて馬鹿なまねをしたな。お前の気を晴らそう、おしゃべりで慰めようと思ったんだが、どうやら癇癪を引き起こしただけだったようだな。」

 「熱で浮かされている時僕が誰だか認識できなかったのは君なのかい?」やはり1分ばかり沈黙した後、頭の向きは変えずにラスコーリニコフが尋ねた。

 「俺さ。しかもそのせいで逆上までしちまったんだからな。特に俺が一度ザメートフを連れてきた時なんかは。」

 「ザメートフ?・・書記の?・・何のために?」ラスコーリニコフはさっと向き直るとラズミーヒンを見据えた。

 「一体どうしてお前はそんなに・・・なんで動揺してるんだ?お前と知り合いになりたいんだと。彼自身が望んだのさ。というのは彼とはお前のことについて随分話したからな・・・そうじゃなかったら俺は一体誰からお前のことについてあんなにも知ることができたんだ?ほんと、ロジオン、あいつはいい奴でさ、素晴らしいったらありゃしない・・・ある意味においてだけどな、もちろん。今じゃ友人で、ほぼ毎日会ってるんだぜ。まっ俺がこのエリアに引っ越して来たからなんだけどさ。お前はまだ知らないんだっけ?ついこの間引っ越して来たんだ。ラヴィーザのところに彼と二度ばかり行ってきたよ。ラヴィーザ覚えているか、ラヴィーザ・イヴァーノヴナだよ。」

 「僕はうなされて何か言ったのか?」

 「もちろんさ!あなた様じゃないかのようでしたよ。」

 「何について僕は口走ったんだ?」

 「おいおい!何について口走ったかだと?人のうわ言なんて知れたことだろ・・・。さて、ロジオン、時間を無駄にしないよう本題に入ろうか。」

 彼は椅子から立ち上がり帽子を引っ掴んだ。

 「何について口走ったんだ?」

 「やけにしつこいじゃないか!何か秘密でも洩らしたんじゃないかって気にしてるのか?心配ご無用。お嬢さんのことは何も言ってなかったぞ。だけどブルドッグか何かについてだとか、イヤリングについてだとか、鎖だか何だかについてだとか、クレストーフスキー島についてだとか、庭師だか何だかについてだとか、ニコヂーム・フォミーチについてだとか、イリヤ・ペトローヴィチ、警察署長の助手についてだとか、喋りまくっていたぞ。それに自分の片方の靴下に大変興味を持っていらっしゃいましたよ、とっても!ご不満をお訴えになって、寄越してくださいって何度も言っていたぞ。ザメートフはお前の靴下のためにありとあらゆるところを自分から捜してくれて、宝石入りの指輪が嵌った香水の香り漂う洗い清められた手でな、お前さんにこのごみくずを渡してくれたんだ。そうしてようやく落ち着きなさったかと思うと、そのごみくずを一日中抱え込んでいらっしゃいましたよ。取り上げることは不可能だったな。きっと今もどっかお前んとこ、毛布の下にあるよ。それからまたズボンのほつれのことを頼んでいたな。何せ涙を流さんばかりだったんだから!俺らはそりゃもう問いただしたさ。それは一体どこのほつれかって。けど何も聞き取ることはできなかったな・・・。さてよろしいですか、それじゃ本題に入ろう!さあここに35ルーブルある。ここから10俺が取る。で1か2時間後にはその使い途を説明するよ。その間に俺はゾーシモフにも知らせることにしよう。もっとも彼はそんなことをせずとももっと前にここにいるべきなんだけどな。なぜって11時を過ぎているんだから。そんでお前さん、ナスターシャちゃんは、俺がいない時ちょいちょい聞きに来てやってください。飲み物だとか何か他に欲しがっているものについて・・・でパーシェンカには今俺が自分で必要なことを言っておきます。それじゃあな!」

 「パーシェンカ呼ばわりだよ!ほんとずるい奴!」彼の後ろからナスターシャが言った。その後ドアを開けて盗み聞きを始めたが、我慢できなくなって自分から駆け下りて行った。彼女にとって彼がそこで女家主と何を話しているかは、それはもう非常に興味あることであったが、一般の目からすれば彼女がラズミーヒンにすっかり魅了されていることは明らかであった。