「今日はさ、パーシェンカにいちごのジャムを届けてもらわないとな、彼に飲み物を作ってやらなきゃ。」そう言うとラズミーヒンは自分の席に着いて、またスープとビールに取り掛かった。
「でも彼女はどこでいちごなんか手に入れるの?」ナスターシャは尋ねた。不器用に広げられた5本の指で皿を支え、お茶を“砂糖で漉して”飲みながら。
「いちごなんて、お前さん、彼女はちょいとした店で手に入れるさ。なあロージャ、ここじゃ君がいない間に一大事件が起きたんだぜ。お前があんな詐欺師みたいなやり方でおれの所から姿をくらまして、住んでる所を教えなかった時、急に俺はもの凄い敵意に襲われ、お前を探し出してとっちめてやろうって決めたんだ。まさにその日に取り掛かったよ。俺は歩きに歩いて尋ねに尋ねたよ!この今の住居を俺は覚えていなかったんだな。もっとも俺がそれを覚えていたことなんて一度もないんだ。なぜって知らなかったんだから。一方以前の住居はと言うと――五角通りのハルラーモフの建物ということだけは覚えていたんだ。俺は探しに探したよ、このハルラムの建物を――なにしろ後になって分かったんだが、それはハルラーモフの建物でなんか全然なくてブーフのだったんだから――聞き間違いってのは確かに時々起こるものさ!それで俺は頭に来ちまった。頭に来て、翌日思い切って住所案内所に行ってみたんだ。そしたらいいかい、そこじゃ2分でお前のことを俺に探し出してくれたよ。君はそこに登録されていたんだ。」
「登録されていた!」
「もちろん。でもコベレフ将軍を俺のいる前で探し出すことはどうしてもできなかったけどな。いやね、話せば長くなるのでございますよ。俺はここにいきなりやって来るやいなや、もうあっという間に君に関する事をすべて把握したよ。すべてだぞ、ロジオン、何もかもだ。全部知ってるんだ。ほら彼女も会ったんだぜ。ニコヂーム・フォミーチだろ、イリヤ・ペトローヴィチは教えてもらったし、それに庭師だろ、ザメートフ氏に、アレクサンドル・グリゴーリエヴィチ、ここの役所の書記係りだよ。そんで最後にパーシェンカとも知り合いになったわけなんだが、これがもうどうしてどうして。ほら彼女も知っているんだけど・・・」
「砂糖でたらし込んだんでしょ。」そうつぶやいたナスターシャの顔にはずるそうな笑みが浮かんでいた。
「お前さんは砂糖を入れて飲んだら、ナスターシャ・ニキーフォロヴナ。」
「あんたって本当ならず者だわ!」突然大きな声を上げるとナスターシャは急に笑い出した。「だって私はペトローヴァで、ニキーフォロヴァじゃないし。」笑うのを止めると、彼女は突然言い添えた。
「心に留めておくことにいたします。さてロージャ、余計なことを言わずに済むよう、俺がまずここで電流を至る所に流そうとしたのはさ、この地にはびこるあらゆる先入観を一時に根絶するためだったんだ。それはそうとパーシェンカは勝利を収めたな。俺はさ、ロジオン、期待なんかまるでしてなかったんだぜ、彼女があんな・・・魅惑的だなんて・・・なあ?どう思う?」
ラスコーリニコフは黙っていた。もっともその不安な視線を片時も彼から逸らすことはなく、今も粘り強く彼の方を見つめ続けていた。
「しかも実に」とラズミーヒンはしゃべり続けた。沈黙など少しも意に介さず、まるで受け取った返答に同意するかのような具合で。「しかも実にうまいこといくんだな、あらゆる点で。」
「この獣が!」ナスターシャが再び叫んだ。この会話はどうやら彼女に名付し難い無上の喜びを与えているようだった。
「まずかったな、ロージャ、最初からつまずいたのは。彼女には別のやり方が必要だったのさ。だって彼女は、言うなれば、予想だにしない性格なんだから!まあでも性格については後で・・・。とにかく、例えば彼女が君に食事をあえて届けようとしないというところまでどうして行ってしまったのか?あるいは例えばこの手形。お前頭がおかしくなっちゃったんじゃないか、こんな手形にサインなんかして!あるいは例えばあの予定されていた結婚、まだ娘さんのナターリヤ・エゴローヴナが生きていた時に・・・。俺は全部知ってるんだよ!もっとも俺だって分かってるさ。そいつがデリケートな問題で、自分が馬鹿野郎だってことは。勘弁してくれよな。ところでちょうどその馬鹿なことについてなんだけど、お前どう思う。プラスコーヴィヤ・パーヴロヴナは全くもってして、ロージャ、そんな馬鹿じゃないよな、第一印象から受け得るようにはさ。」
「そうだな・・・」ラスコーリニコフがぼそっとつぶやいた。その視線は脇の方に向けられていたが、会話を続けた方が得だということは念頭にあった。
「そうだろう?」ラズミーヒンは叫んだ。どうやら答えが返ってきたことに満足したようであった。「でも賢いってわけでもないよな?いや全くもってして実に意外な性格なのさ!俺はな、ロジオン、いくらか戸惑ってるんだ、本当だぜ・・・。彼女40は確実に超えてるだろうな。自分では36って言ってて、まあそう言う権利は当然有しているわけだけれども。もっとも君に誓って言うがな、僕は彼女についてむしろ内面的に判断してるのさ、もっぱら形而上学的な観点からな。そこでロジオン、僕らの間に生じたシンボルときたらお前の代数学さ!何も理解できやしない!それはさておき、こんなことはみな本当にくだらないことなんだ。でも彼女はだな、お前がもう学生でないこと、個人授業とスーツを手放してしまったこと、それからお嬢さんが亡くなったことで彼女にはもうお前と親戚同然の付き合いを続ける必要がないこと、を認識したら、突然怖くなってしまったのさ。一方のお前は自分のほうから部屋に引きこもって、以前の関係を何も維持しようとしなかったから、彼女はお前を貸家から追い出そうと思い立ったんだな。大分前から彼女はその企てを温めていたんだが、手形が惜しくなった。しかもお前自身、母さんが払うって言明していたんだろ・・・。
「それは僕が卑劣だから言ったんだ・・・。僕の母親その人は物乞い寸前さ・・・僕は嘘をついたんだ。住居に留めておいてもらうために・・・食事を出してもらうために。」ラスコーリニコフは大きな声ではっきりと言った。
「うん、それはお前賢いってもんだ。とにかく肝心なのは、ここでチェバーロフ氏が現れちまったってことさ。7等文官で実務家の。パーシェンカは彼がいなくちゃ何一つ考えられなかっただろうし、なにせあまりに内気だからな。実務家の方はどうかと言えばそんなことはなくて、事の始めに当然尋ねたわけさ。手形が実現される見込みはありますかって。答えはイエス。なぜなら自分の125ルーブルの年金で、例え自身は食うに困ってもロージャを救い出そうとする母親がいて、兄のためなら身売りもしようという妹もいるから。彼はまさにここを根拠にしていたんだな・・・。なんで動揺なんかしてるんだ?俺はな、ロジオン、今やお前の裏の裏まで探り出したんだぜ。お前がパーシェンカに胸の内をさらけ出したことは無駄じゃなかったぞ。まだ親戚同然の付き合いがあった時にな。それはそうと俺は今親友として言ってるんだからな・・・。そこなのさ。つまり誠実で感じやすい人間は胸の内をさらけ出し、実務家は耳を傾けて食い物にし、そんで食べ尽くしてしまうってわけさ。そんでとうとう彼女はその手形を返済とかで当のチェバーロフに譲り渡したんだ。奴は形式的に請求してきまり悪そうな様子もなかった。こうしたことをみんな知った時、俺は良心の気が済むよう奴にも電流を流してやろうとしたんだ。だけどその時には俺とパーシェンカの間には良好な関係ができていたから、俺はこんなことはみんな止めるよう強く言ったのさ。つまり根本的に。お前が払うということを請け合って。俺はな、ロジオン、お前の代わりに請け合ったんだぜ。聞いてるか?チェバーロフを呼び出して10ルーブルを掴ますと、手形が戻ってきた。そんでそれをお前さんに光栄にも提示することができるってわけだ。今やお前さんの言葉は信用を取り戻している。さあ持って行きなよ。俺が然るべく破っておいたぞ。」