「罪と罰」65(2−3)

 彼は包みを解き始めたのだが、どうやらそれに非常に強い関心を持っているようであった。

 「これなんだよ、ロジオン、信じられるかい、俺の心の中に特別にあったものは。なぜってお前を人間にしてやることがどうしたって必要だろ。始めましょうか、まずは上の方から。この鳥打帽が目に入るかな?」彼は包みの中から、十分ちゃんとした、それでいてごく一般的な、安価な鳥打帽を取り出しつつ事に取り掛かった。「寸法を合わさせてくれよ?」

 「後、後で」ラスコーリニコフは不満そうに手を振りながら言った。
 
 「駄目だぞ、ロージャ、つべこべ言うな。後でじゃ手遅れになっちまう。それに俺が一晩中寝付けなくなっちまうだろ。なぜって測りもしないで、適当に買ったから。ぴったりじゃないか!」寸法を合わせると彼はもったいぶった声を上げた。「ジャストサイズだ!頭に被るものってのはな、ロジオン、服装において、いの一番に来るものなんだ。人物の保証みたいなもんさ。トルスチャコーフ、俺の友人なんだが、毎回頭に被ってるものを脱がざるを得ないことになる。どっか公共の場所に行くたびにだ。そこじゃ他の連中は帽子やキャップを被ってるんだぜ。みんなはそれを彼の奴隷根性のせいだと思っているが、彼は自分の鳥の巣を恥ずかしがっているだけなんだな。大の恥ずかしがり屋なのさ!さて、ナスチェーニカ様、ここにあなたへの頭に身に付ける物が二つ。こっちはパリメルストーンコート(彼は隅からラスコーリニコフの歪んだ丸帽を取ってきた。なぜそれをパリメルストーンコートと名付けたかは不明である。)こっちは装飾品の宝石。当ててみなよ、ロージャ、いくら払ったか。ナスタシユーシカは?」彼が黙っているのを見てラズミーヒンは彼女に話しかけた。

 「20コペイカってとこじゃない」ナスターシャが返答した。

 「20コペイカ、あほか!」怒って彼は大声を上げた。「今時20コペイカじゃお前だって買えないぞ。80コペイカだよ!しかもそれだって使い古しだからなんだからな。実際のところは条件を付けてさ、これをくたくたにしちまったら、来年別のをただでくれるってことになってるんだ。ほんとにほんとだって!さて旦那、それじゃアメリカ履物国に取り掛かりやしょう、我々のギムナジウムじゃそう呼ばれていたところの。言っとくけどな、このズボンには誇りさえ感じているんだからな!」すると彼はラスコーリニコフの前で、グレーの、軽い夏用のウールでできたズボンのしわを伸ばした。

「穴もない、しみもない、しかも非常に満足がいくものだぞ。もっとも着古しではあるんだが。同じようなチョッキもある。同色でさ。流行に適ってるんだ。でも中古がなんだっていうんだ。むしろそっちの方が実際のところはいいんだって。より柔らかいし、手触りがいいし・・・なあロージャ、世間で成功するにはな、俺の考えではだよ、常に季節に注意を払っていれば十分なんだ。もし1月にアスパラガスを要求しなければ、財布にいくらか金が貯まるだろ。今回の買い物についても同じことさ。今の季節は夏だから俺は夏の買い物をしたのさ。なぜって秋になればそれでなくともより暖かい素材が必要になって、捨てざるを得ないことになる・・・ましてその頃にはこうしたものは何だってもう自然と駄目になるのさ。誇張された見てくれの良さが原因でないとしても、内部の欠陥で。さあ評価してみな!いくらだと思う君らの考えでは。2ルーブル25コペイカだぞ!しかも覚えとけよ、これまた先の条件付きでさ、こいつを駄目にしたら来年別のをただで受け取れるんだぞ!フェジャーエフの店じゃこのやり方でしかやってないんだ。いったん金を払えば、一生不自由することはない。なぜならそうしないと自分から出掛けようとしないだろ。さて旦那、それじゃブーツに取り掛かりやしょう。どんなかって?そりゃもうご存知のとおり中古品さ、だけど二か月くらいは十分もつぜ。なぜなら外国製で外国の商品だからな。イギリス大使館の秘書官が先週古物市で売っぱらったのさ。全部で6日間しか履いてなかったんだけど、金がどうしても必要だということで。値段は1ルーブル50コペイカときた。お買い得だろ?」

 「でもぴったりじゃないかも!」ナスターシャが指摘した。

 「ぴったりじゃないだと!じゃこれは何だい?」すると彼はポケットから古くてカチカチになった、至る所に乾いた泥がこびり付いている、穴の開いたラスコーリニコフのブーツを引っ張り出した。「俺がちゃんと持って行ったからさ、このお化けで実際のサイズを再現できたってわけ。こりゃみんな衷心からだからな。でもってリネンについては家主と話がついてる。ほら手始めにシャツ3着だ。麻布だけど表はなかなかだろ・・・。さて旦那、というわけで帽子は80コペイカ、その他の服は2ルーブル25コペイカ、計3ルーブル5コペイカ。ブーツは1ルーブル50コペイカだったんだが、それというのも非常にいいものだったからな。合計4ルーブル55コペイカ。それに5ルーブルでリネン全部。まとめて値切ったのさ。総計できっかり9ルーブル55コペイカだ。45コペイカはお釣り、5コペイカ銅貨で。さっ旦那どうぞお受け取りください。これでロージャ、今やお前は服装の全部において再生されたわけだ。なぜって、俺の考えじゃお前のコートはまだ使えるというだけじゃなくて、独特な上品さを醸し出しているからな。シャルメールのとこで誂えるってのはこういうことだよ!靴下と他の残りの物に関してはお前に任せるよ。金は25ルーブル残ってる。それからパーシェンカと家賃のことについては心配すんな。言っただろ。クレジットは無際限だって。さあロジオン、下着を取り替えさせてくれないか、さもないとこのシャツに残ってる病気が今後も居座り続けることになっちまうだろ・・・。」

 「放っておいてくれ!結構だ!」ラスコーリニコフは素気無く断った。彼はラズミーヒンの不自然におどけた調子の服の購入に関する戦闘報告を嫌々聞いていたのだった・・・。

 「そりゃロジオン、無理ってもんだ。一体何のために俺が奔走したと思っているんだ!」ラズミーヒンは頑として譲らなかった。「ナスタシユーシカ、遠慮してないでさ、助けてくれよ。ほらこんなふうにだよ!」ラスコーリニコフの抵抗にも関わらず、彼は下着を取り替えてしまった。ラスコーリニコフは枕辺に横たわり2分ばかり一言もしゃべらなかった。

 “しばらく自由にはさせてくれまいな”と彼は思った。「これはみんな誰の金で買ったもんなんだい?」仕舞に彼は尋ねた。視線は壁に向けられていた。

 「金だって?どういうこった!お前自身のに決まってるだろ。さっき組合員がいただろ。ワフルーシンの使いの。お母さんが送ってくれたんじゃないか。それともそれも忘れちまったか?」

 「今は記憶にあるよ・・・」長いどんよりした沈思の後ラスコーリニコフは言った。ラズミーヒンはしかめっ面をして不安そうに時々彼の方を見ていた。

 ドアが開き、背の高いがっちりした男が中に入ってきた。ラスコーリニコフにはその男の外見もやはりすでに見覚えがあるかのように思われた。

 「ゾーシモフ!ようやくかよ!」ラズミーヒンが喜んで叫び声を上げた。