誰かが入って来たのを耳にして彼は覚醒した。目を開けるとラズミーヒンがいて、ドアを開け放して敷居の上に立ち、入っていいものかどうかためらっていた。ラスコーリニコフはベッド上で素早く上体を起こし、彼の方を見た。それはまるで何かを思いだそうと努めているかのようであった。
「あれ、眠ってないのか。戻ってきたぞ!ナスターシャ、こっちに包みを持って来て!」ラズミーヒンが下に向かって叫んだ。「すぐ使い途が分かるからな・・・」
「何時だ?」不安そうに周囲に目を遣りながらラスコーリニコフが尋ねた。
「しかしロージャよく寝たな。外は日が落ちてきてるから、6時ぐらいになるんだろ。約6時間以上眠ってたってことか・・・」
「何だって!俺は一体何をやっているんだ!」
「それがどうした?健康のためさ!どこに急いで行くっていうんだ?デートの約束でもあるのか?今や時間はすべて俺たちのものさ。俺はもう3時間ばかりお前を待ってるんだからな。2回ほど立ち寄ったけどお前は寝てるし。ゾーシモフのところには2回顔を出したが留守だった。本当だぜ!全然心配ない、じき来んだろ!・・野暮用で俺もちょっと出かけてたんだ。なんせ今日引越しで、すっかり片を付けたところなんだ、おじさんと一緒にな。俺んところには今後おじさんがいるってことだ・・・。でもそんなことはどうでもいい、事に取り掛かろう!・・こっちに包みをくれよ、ナスチェーニカ。さあ俺らはこれから・・・ところでロジオン調子はどうだ?」
「僕は元気さ!病んじゃいない・・・。ラズミーヒン、君はここに大分前からいるのかい?」
「言ったと思うが3時間待ってるよ。」
「そうじゃなくて、その前は?」
「その前って?」
「いつからここに来るようになったんだい?」
「俺はさっきお前に話したはずだぞ、それとも覚えてない?」
ラスコーリニコフは考え込んだ。まるで夢の中でのことのようにして先刻のことが彼の脳裏に浮かんだ。彼だけが思い出すことができず、不審の目をラズミーヒンに向けていた。
「ふむ!」――と彼は言った。――「忘れちまったんだな!さっきの時点では思っていたんだ。やっぱりまだお前は・・・って。今は眠って良くなったんだな・・・確かにすっかりよくなっているように見える。でかしたぞ!さあ事に取り掛かろう!じき思い出すさ。こっちを見てくれよ、ロジオン」