正宗白鳥 『新編 作家論』 岩波文庫

 先日のブログで「作家の処女作にはその後の作品の萌芽がすべて含まれる」という考えについて書いた。この考えは正宗白鳥がどこかで書いていたような気がしていたので、所有している正宗白鳥の本をぱらぱらと探したが見つからなかった。代わりに見つけたのは僕がその考えに賛成する理由として書いた「自分の経験からして人間が劇的に変わることなど有り得ない」に類似した「人間は境遇により、あるいは修養により、次第に変化するには違いないが、根本的な烈しい変化は滅多にあり得ない」の方だった。

 小林秀雄との間で交わされた「トルストイ家出論争」に注目して以来、正宗白鳥の著作はいくつか読んだが、氏の著作を読むとその考えに、批評に僕は納得させられてしまうことが多い。それは例えば、島崎藤村夏目漱石を比べて述べた「藤村氏の小説よりも遊び派の漱石の小説などの方に、人間の心理が深く洞察されていることもあるのだが、私は才不才、能不能よりも、人間の態度に、時としては一層多くの敬意を払うことがある。・・・どうかして人生を知りたいと望んで筆を執っている作家の態度如何に心惹かれる。」そういう氏の姿勢に共感するためかもしれない。