「罪と罰」20(1−3)

「可愛い私のロージャ――と母は書いていた――お前と手紙で話をしなくなってもう2ヶ月余りになりますね。そのことで私自身心を痛め、気になって眠れぬ夜さえありました。でもきっとお前はこの余儀ない無沙汰のことで私に腹を立てることはありませんね。お前は知っているもの、私がどれほどお前を愛しているかってことを。お前だけなんだよ私たちには、私とドゥーニャには。お前は私たちの全て、あらゆる期待、私たちの希望なんだよ。私はどんなだったでしょう、お前が生活費に事欠いて大学に行くのを止めすでに数ヶ月経っていること、そして学業や他の手段が中断されていることを知った時は。年に120ルーブルの年金でどうやってお前を助けてやることができるでしょう?私が4ヶ月前に送った15ルーブルは、お前自身知っているように、まさにこの年金を担保に当地の商人であるアファーナシー・イヴァーノヴィチ・ワフルーシンに借りたものです。彼はいい人でお前のお父さんの友人でもあったんですよ。でも彼に私の代わりに年金を受け取る権利を譲ってしまったので、借金が返済されるまで待たなければなりませんでした。でもこれはたった今実現したんですけどね。そんなわけでその間はお前に何も送ってやることができなかったんです。でも今度は、有難いことにもっと送ってやれそうなんです。しかも大体において私たちは今、幸運を自慢することさえ許されそうなんです。このことについて取り急ぎお前に知らせます。第一に、お前は感づいているかしら、可愛いロージャ、お前の妹が私と暮らすようになってもう一月半になるんだけど、私たちはもうこれ以上離れ離れになることはない、今後も、ということです。有難いことに彼女に対する拷問は終わりました。でも順を追って残らず話すことにしましょう。全体がどんな具合だったかお前が分かるようにね。また私たちがお前に今まで何を隠しておいたか話すことにします。お前が2ヶ月ばかり前に、誰かからドゥーニャがスヴィドリガイロフ氏の家で無作法な振る舞いにより大変苦しんでいるらしいということを聞き、私に正確な説明を求めるという手紙を寄越した時、――私はその時お前に何と答えてやることができたでしょう?もしもすべての真実を書いたとしたら、お前はおそらく何もかも投げ出し、例え歩いてでも私たちのところに来たんじゃないですか。私はお前の性格も気性も知っていますからね。お前は妹が馬鹿にされるのを黙って見てはいないでしょう。私自身が八方塞がりの状態でした。でもどうすべきだったというの。私自身、全ての真実をその時知らなかったんですから。特に困難だった点は、ドゥーネチカが前の年に家庭教師として彼らの家に入った後で、給料から毎月差し引くという条件であらかじめ丸々100ルーブルを受け取ってしまっていたということです。つまり借金を完済しないうちは、職を放棄することはできなかったのです。そのお金はといえば(今ならお前に何もかも説明してやることができますよ、掛替えのないロージャ)何を措いてもお前に60ルーブル送金してやるために借りたのです。お前はその時、そのお金がどうしても必要で、私たちから去年確かに受け取りましたね。私たちは当時お前に嘘をつき、それはドゥーネチカが以前蓄えておいたお金の中から出たものだと書きました。ですがそれはそうではなかったのです。でも今はお前に全真相を伝えましょう。と言うのもすべてが今回急に、神の思し召しにより、良い方に転じたからです。またお前をドゥーニャがどれほど愛しているか、あれがどんな高貴な心を持っているか、お前に知ってもらうためにです。実際スヴィドリガイロフ氏は最初、彼女に対し非常に乱暴な態度をとっており、様々な無礼、嘲笑を食事中に浴びせていたのです・・・。ですがこれら重苦しい細部の一一に立ち入るつもりはありません。お前を無駄に興奮させたくありませんもの。すでにみな片が付いているという今になってね。簡単に言うと、マルファ・ペトローヴナ、つまりスヴィドリガイロフ氏の妻と全家人の善良にして上品な態度にも関わらず、ドゥーネチカは非常に苦しい思いをしたのです。特にスヴィドリガイロフ氏が昔の連隊風の習慣で、バッカスの影響下にある時には。そのことはさておき一体何が後になって明らかになったでしょう?想像してごらん、この非常識な人物がかなり前からドゥーニャに対し情熱を感じていて、けれどずっとそれを彼女に対する無作法と軽蔑という仮面の下に隠しておいたということを。恐らく彼自身恥じ、戦慄を覚えたことでしょう。そうした浅はかな期待を抱いていても、すでに年をとった、一家の父である自分自身を自覚する時には。それゆえに思わずドゥーニャに対し腹を立てもしたのです。あるいはひょっとしたら、その態度の乱暴さと嘲笑によって他人に対し全真相を隠しておきたかっただけかもしれません。でも結局堪えきれなくなって、大胆にもドゥーニャに露骨な恥ずべき提案をしたのです。いろいろな見返り、おまけに全てを捨て彼女と別の村あるいはひょっとしたら外国へ逃げるという約束をしてね。彼女の苦しみのすべてが目に浮かぶでしょ!ただちに職を放棄することは出来ませんでした。金銭的な義務のためばかりでなく、マルファ・ペトローヴナに不快な思いをさせたくないというためにもね。彼女が急に疑いを抱くようになってしまうかもしれない、つまり家庭に不和の種をまくことになってしまうかもしれないでしょ。それにドゥーネチカにとって大きなスキャンダルになってしまうかもしれないし。それじゃ済まなかったかもしれないしね。ここには多くの様々な原因がありました。そのため6週間が経つまではドゥーニャがこの恐ろしい家から抜け出すのを期待することはどうあってもできなかったのです。もちろん、お前はドゥーニャを知っているね、どんなにあれが利口でどんなに強い性格をしているか、お前は知っているね。ドゥーネチカは多くのことに耐えることができるし、どんなにぎりぎりの場合であっても、己の節を失わない程度には、自分の中に寛大な心を見出すことができる娘です。彼女は私にさえもなんでもかんでも書いて寄越すというようなことはしませんでした。私を憂鬱にさせまいとしてね。でも私たちは頻繁に手紙のやり取りはしていました。訪れた結末は意外なものでした。マルファ・ペトローヴナが偶然、夫が庭でドゥーネチカに懇願していたのを聞いてしまったのです。すべてを歪めて理解し、あらゆることにおいて彼女の方を責めました。彼女こそがあらゆることに対する原因なのだと考えてね。すぐその場の庭でひどい揉め事が起こりました。マルファ・ペトローヴナはドゥーニャに平手打ちさえ浴びせ、全く耳を貸そうともしないくせに、自分では丸一時間も怒鳴りっぱなしで、挙げ句の果てには、ドゥーニャを私の元へ、町へ直ちに連れて行くよう命じました。粗末な百姓の四輪馬車に乗せてね。その中に彼女のものを、下着、洋服となんでもかんでも放り込みました。すべてのものが荷造りされず、きちんと積まれないような具合になってしまいました。でちょうどその時土砂降りに見舞われ、ドゥーニャは、侮辱され辱められた彼女は、百姓と共に丸々17露里を覆いなしの四輪馬車に乗って行かなければならなくなったのです。それで今考えてごらん、お前に手紙で何と書くことができたか。2ヶ月前に受け取ったお前の手紙に対する返事としてだよ。何について書くべきなの?私自身絶望していました。真実をお前に書く勇気はありませんでした。なぜならお前がものすごく不幸になって、悲しみ、怒り狂うだろうから。それにお前に何ができるというの。身を滅ぼすようなことにもなりかねないしね。それにドゥーネチカが禁じていましたし。とは言うものの、くだらないことで手紙を埋めたり、なんでもいいから適当なことについて書くというのは、心にこれほどの悲しみがある時、私にはできませんでした。一ヶ月間私たちの町ではこの出来事に関する噂で持ちきりでした。それは蔑みの視線と陰口のためにドゥーニャと教会にさえも行くことができず、私たちがいる前でもしゃべっている程でした。知り合いという知り合いが私たちから遠ざかり、みな挨拶さえしなくなりました。それから確かなことなんですけど、番頭達や幾人かの下級官吏が私たちを低劣なやり方で侮辱したくて、うちの建物の門にタールを塗りつけたのです。その結果、宿主は私たちに立ち退きを要求し出しました。これらすべての原因はマルファ・ペトローヴナにあって、彼女はありとあらゆる家でドゥーニャを非難し、彼女を汚すことに成功したのです。彼女はこちらじゃ全員と知り合いで、この一ヶ月間ひっきりなしに町に来ていました。それに彼女はややおしゃべりで、自分の家庭の事について、特に夫の愚痴を誰彼構わず話すのが好きなのです。これは全く褒められたことではないけどね。そういったわけで事件の全容が短い時間で町の中だけでなく、郡中にまで広まってしまったのです。私は病気になってしまいました。ドゥーネチカの方は、私よりしっかりしていましたよ。もしお前が、彼女がどのようにしてすべてに耐え、どのようにしてこの私を慰め、勇気づけていたか知ったなら!彼女は天使です!でも神の慈悲により私たちの苦しみは軽減されました。スヴィドリガイロフ氏が考えを改め、罪を悔いたのです。おそらくドゥーニャを憐れんでのことなのでしょう。マルファ・ペトローヴナに、ドゥーネチカに全く罪がないことを示す十分にして明白な証拠を提示したのです。つまりそれは手紙であって、マルファ・ペトローヴナが彼らを庭で目撃する時まで、ドゥーニャが書いて彼に渡すことを強いられたものです。個人的に話し合うこと、また彼が執拗に求めていた密会を拒否するためにね。そしてそれはドゥーネチカの出発した後までスヴィドリガイロフ氏の手元に残されていたのです。この手紙の中で彼女は最も熱烈な仕方でしかも全き怒りを込めて、まさに彼を、マルファ・ペトローヴナに対するその行為の下劣さにおいて非難し、そして彼が父であって家庭持ちであること、またただでさえすでに不幸な、頼りにする者がいない娘を苦しめ不幸にすることは、彼としてどれほど卑劣かということを注意したのです。