「罪と罰」7(1−1)

少し経つとドアにごく僅かな隙間ができた。住人は不信感をあらわにして隙間から来訪者をじろじろ見ていた。暗闇の中から光を放つ小さな目が見えているだけだった。フロアに多くの人がいるのを見て取ると、勇気付き全て開放した。青年は敷居をまたいで暗い玄関に足を踏み入れた。そこは間仕切りで仕切られており、その向こうは気持ちばかりの台所であった。老婆は彼の前に黙って立ち、いぶかしげに彼の方を見ていた。それはちっぽけな干からびたババアで、年は60くらいであろう、鋭い意地悪そうな小さい目をしており、鼻は小さく尖っていて、頭髪はむき出しであった。ほとんど白髪のない白茶けた金髪には油がこってりと塗りつけられていた。鶏の足に似た細長い首にはフランネルのぼろらしきものが巻きつけられており、肩には、この暑さにも関わらず、すっかりくたびれ黄ばんだ、大きすぎる毛皮のカツァヴェーイカが掛かっていた。ババアは頻りに咳をし、うめいていた。おそらく青年は一種独特な目つきで彼女を見たにちがいない、なぜなら彼女の目にも突然再び以前の不信が現れたからだ。

 「ラスコーリニコフ、学生です。一月ばかり前に来ました。」もっと愛想よくしなければならないことを思い出すと、青年は軽く頭を下げながら、早口でぼそぼそと言った。

 「覚えてますよ、お前さん、ちゃんと覚えてます、あなたが来たことは。」前と同じように疑いの目を彼の顔から離さないまま老婆ははっきりと言った。

 「そこでなんですが・・・また同じ小用で・・・」老婆の猜疑心に少しばかり戸惑い、驚きながらラスコーリニコフは続けた。

 《ま、奴はいつもこんな感じなんだろう、だがこの前は気づかなかったな。》いやな感じを抱きながら彼は思った。

 老婆は物思いにふけるかのようにして押し黙った。その後脇へ下がり、部屋に通じるドアを示して客を先に通しながら「どうぞ、お前さん。」と言った。