「罪と罰」5(1−1)

 服装を気にしない人であっても、日中そんなぼろを着て外出するのは憚られるであろうというほど彼はみすぼらしい格好をしていた。だがこの街区は服装で人を驚かすのは難しい区域であった。センナヤ広場に近いこと、いかがわしい店が多いこと、主として、このペテルブルクの中心を走る通りや路地に稠密している町工場労働者および手工業労働者層、これらの条件が時にここら一帯の光景にその手の連中を登場させるので、格好のことで驚くことの方がおかしな話なのであった。しかし青年の心には悪意ある軽蔑が満ち満ちていたので、時にはいかにも青年らしいあらゆる繊細さを備えていたのにも関わらず、彼は自分のみすぼらしい服装を往来にいながら全く恥じていなかった。もっとも絶対に会いたくない知り合いやらかつての学友やらに会うとなれば話はまた別である・・・。ところが、何のためにどこに向かっているのか不明であるが、山のような駄馬に繋がれた巨大な荷馬車が一人の酔っぱらいを乗せ通りを駆けているまさにその時、その酔っぱらいが追い抜きざま彼に向かって突然叫んだ「おいてめぇ、ドイツ帽」――そして彼を手で指し示しながら、あらん限りの大声で叫び出した――すると青年は急に立ち止まり発作的に自分の帽子を掴んだ。この帽子は深い丸型のツィンメルマン社製であったが、すでに使い古されており、全体的にすっかり赤茶けていた。至る所穴としみだらけで縁はなく、これでもかというくらい不恰好な角を作って一方へ折れ曲がっていた。だが恥ずかしさではない全く別の感情が、驚愕にさえ似たそれが彼を捉えた。

 「俺は分かっていた。」彼は動揺してつぶやいた。「そうだと思っていた。このこと以上に忌まわしいことなどない。まさにこの手のへま、最もありふれた些細な事が全計画を台無しにしてしまうのだ。うむ、特徴があり過ぎる帽子だ・・・へんちくりんなせいで確かに目立っている・・・俺のぼろには学帽でなきゃだめだ、せめて煎餅みたいな帽子で、このでき損ないでは話にならない。誰もこんなの被ってやしない、遠くからでも目に付き、記憶に残ってしまう・・・肝心なことは、後になって思い出されるということで、あれよ証拠になってしまう。できるだけ目立たないようにしなければ・・・些細な事、些細な事が重要なのだ・・・他ならぬこの些細な事がいつもすべてを駄目にするのだ・・・」