「罪と罰」73(2-5)

 ピョートル・ペトローヴィチは間違いなく腹を立てていたが口を閉ざした。彼はこれらのことすべてが何を意味しているかなるべく早く理解しようと全力を挙げていた。1分ばかり沈黙が続いた。

 

 その間、返答した際わずかに彼の方に身を向きかけていたラスコーリニコフは、ある特別な興味をもって再び彼をじっくり見ることに急に取り掛かった。それはまるでさっきはまだ彼をすっかり見分けられなかった、あるいは彼における何か目新しいものが彼を驚かせたような具合であった。このために彼はわざわざ枕から上体を少し起こしさえした。実際のところピョートル・ペトローヴィチの全体的な様子において彼をひどく驚かせたのは普通ではないような何かしら、すなわちつい先ほど彼に向けてひどくぶしつけに発せられた“フィアンセ”という名称を正当化するかのような何かしらであった。第一に、ピョートル・ペトローヴィチが婚約者を待っている間にめかしこもうと首都で数日間精力的に奔走したことが見て取れる、それどころかあからさまである、ということである。もっともこれについては罪はないに等しく許されてしかるべきことだ。例え自分自身の、もしかするとあまりにも自己満足的なものかもしれないが、より良い方へ自分が気持ちよく変わるという自意識はこのような場合許されてもいいだろう。何となればピョートル・ペトローヴィチは近いうちに花婿になる身であるからである。彼の衣装はすべて仕立て下ろしで、しかもすべてしっくり合っていた。ただしみなあまりにも新しくて、あからさまにその目的を示してしまっている、ということを除いてであるが。洒落た真新しい帽子一つでさえその目的を証拠立てていた。ピョートル・ペトローヴィチは何かこうあまりにも丁寧にそれを扱い、あまりにも慎重にそれを両手で保持していたのであった。魅力的な、紛れもないジュベンの藤色の手袋でさえ全く同じことを証拠立てていた。例えそれを身に付けておらず、ただそれを盛装のために手でもっているだけであってもだ。ピョートル・ペトローヴィチの服装においては、明るい、若い世代が好むような色彩が優勢であった。彼が身に付けていたのは、気の利いた淡いブラウンのサマージャケット、明るい軽やかなズボン、同様のチョッキ、買ったばかりの凝った下着、バチストの極軽いピンクの細い縞の入ったネクタイ、そして何より素晴らしいのは、これらすべてがピョートル・ペトローヴィチによく似合ってさえいたことである。彼の顔は非常に爽やかでハンサムと言ってもよく、それでなくとも実年齢の45歳より若く見えた。黒々とした頬ひげが両側から感じよく顔面を覆い、それは二切れのカツレツのような形をしており、きれいに剃り上げられ光輝いているあごの脇に極めて美しく密生していた。髪までもが、もっともわずかに白髪はまじっているけれども、理容師の元で整えられ巻かれたそれが、この状況によって滑稽なあるいは何かしらまぬけな感じになることは一切なかった。一般に巻き髪をしていると決まってそんなことになるのだが。それと言うのも、結婚せんとするドイツ人との避けがたい類似をその顔に付与するからである。もしもこの相当にハンサムで威厳のある顔立ちにおいて不快な、嫌な感じをもたらす何かが実際にあるとしたなら、それはもう別のことに原因があるのであった。ルージン氏を遠慮なくじっくり見ると、ラスコーリニコフは毒のある笑みを浮かべ、再び枕の上に身を沈め先のように天井を見つめ始めた。

 だがルージン氏はこらえた。どうやらしかるべき時までこうした普通でない言動一切を無視するよう心に決めたようであった。

 

 「あなたがこのような状態にあることを知り大変残念に思っております。」何とか沈黙を破ろうと彼は再び話し始めた。「あなたの不調を知っていたならもっと早くに尋ねたんですが。ですがそのあちこち走り回っておりまして!・・しかも弁護士業務に関する非常に重要な案件を元老院で抱えておりましてね。あなたが推測できる例の関心事については言うまでもないでしょう。あなたの、つまりお母さまと妹さんを今か今かと待っているところでして・・・」

 

 ラスコーリニコフの体が少し動き、何か言いかけた。その表情には動揺の色がいくらか見えた。ピョートル・ペトローヴィチは一時中断して待ち構えたが、何もその後に続かなかったので続けた。

 

 「・・・今か今かと。とりあえず彼らの住まいは探し出しました・・・」

 

 「どこです?」弱々しい声でラスコーリニコフが発言した。

 

 「ここからすぐ近くの、バカレーエフの建物で・・・」

 

 「ヴォズネセスキー通りにあるやつだ。」ラズミーヒンが話の腰を折った。「あそこは貸し部屋付きの二階建てで、商人のユーシンがオーナーをやってるのさ。行ったことあるんだ。」

 

 「そう、貸し部屋のあるとこでございますね・・・」

 

 「こんなひどい場所あるかってとこだよ。不潔、悪臭、それにいかがわしい場所。良からぬことが起きるのさ。誰が住んでんだか知れたもんじゃない!・・俺自身は恥ずべき事のために尋ねたんだがね。だけどまあ安いよ。」