「罪と罰」71(2ー4)

 「いや、お前、だがじゃないぞ。もしイヤリングが、まさにその日のその時間にニコライの手元に気付くとあったそれが、実際彼にとって不利な、事実に基づく重要な証拠であるなら、もっとも彼自身の証言によって直に導かれているから議論の余地のある証拠ということになるけれども、無罪になる事実も何としても考慮に入れる必要がある。ましてそれらが否定し難い事実であればなおさらだ。さて、我々の法律学の性格からしてお前はどう思う。ただ心理学的な不可能性のみに、ただ心的状態のみに基礎を置くような事実を、否定し難いものとして、また有罪に導く物的事実すべてを、例えそれがどんなものであろうと、否定しさるものとして彼らが受け入れるあるいは受け入れられると思うか?いや、受け入れなんてしない。絶対に受け入れっこない。なぜなら彼らに言わせれば、小箱が見つかり、男は首をくくろうとしたから。“そんなことはあり得ない。もしも自分に罪があると感じていないんだとしたら!”これが根本的な問題で、こいつのせいで俺は頭にきているのさ!分かるだろ!」

 

 「もちろんお前が熱くなっているのは分かっているさ。待てよ。聞くのを忘れてた。イヤリングの入った小箱が実際に老婆の長持ちの中にあったものだ、ということはどうやって証明されたんだ?」

 

 「それは証明されているんだ。」ラズミーヒンは顔をしかめ、不本意なことのようにして答えた。「コーフは物を知っていて、それを質入れした人物を示した。でその人は物がまさしく彼のものであったと明確に証言したんだ。」

 

 「まずいな。ではもう一つ。コーフとペストリコーフが上がって行った時、誰かしらニコライを見ていないのか。このことを何かしらによって証明することは不可能なのか?」

 

 「そこが問題なんだよ。誰も見ていないんだ。」ラズミーヒンは残念そうに答えた。「だからこそまずいのさ。コーフとペストリコーフでさえ彼らを見ていないんだから。上に上がって行った時に。もっとも彼らの証言は今やそれほど大きな意味を持っていないようだけどな。彼らが言うには、“住戸のドアが開いているのを見た。その中で仕事が行われていたに違いない。しかし通った時、注意は払っていなかったから、そこにその時働いている人がいたかどうかははっきり覚えていない。”」

 

 「ふむ。つまり、こちらを正当とする論拠は、お互いに殴り合って大笑いしていた、ということしかないということだな。仮にこれが有力な論拠だとしても・・・。それじゃ一つ聞かせてくれ。お前自身はこの一連の事実を一体どうやって説明する?拾ったイヤリングは何によって説明するんだ。仮に彼が実際それを証言したように見つけたとして。」

 

 「何によって説明するかだって?説明する必要がどこにある。事は明白じゃないか!少なくとも方向性は、それにそって進めていくべき方向性は明白だし、証明済みだ。他ならぬあの小箱がそれを示したんじゃないか。真の殺人者があのイヤリングを落としたのさ。殺人者は上にいたのさ。コーフとペストリコーフがノックした時には。鍵をかけてじっとしていたんだ。コーフはあほをやらかして下に行っちまった。この時殺人者は外に飛び出してやはり下に駆けだした。なぜなら彼には脱出する他の手立ては一切なかったから。階段で彼は無人の住戸に入ることでコーフとペストリコーフ、庭師の目から逃れた。ちょうどその時、ドミトリーとニコライがそこから飛び出てったのさ。ドアの裏でしばらく立っていたんだな。庭師らが上がっていった時には。足音が止むのを待つと、それから平然として下りて行った。まさにちょうどその時だ。ドミトリーとニコライが通りに飛び出して行ったのは。みなが散り散りになり、門の下には誰も残っていなかった。もしかすると彼は見られていたかもしれないが、注意を引きはしなかったろう。通行人がそんな少ないわけないだろ?さて小箱だが彼がポケットから落としたのさ。ドアの後ろに立っていた時に。落としたことには気付かなかった。なぜなら彼はそれどころじゃなかったから。あの小箱がはっきり証明しているじゃないか。彼がまさにそこに立っていたことを。これが事のすべてさ!」

 

 「よくできてる!なあお前、こりゃよくできてる。できすぎてるぞ!」

 

 「一体どうして、なんでそんな?」

 

 「そりゃあまりにもすべてがうまく一致してるからさ・・・はまりすぎてる・・・まるで演劇だ。」

 

 「くそっ!」とラズミーヒンが声を荒げかけたちょうどその時ドアが開いた。そしてその場に居合わせた人の誰とも馴染みでない、見知らぬ人物が入ってきた。