「罪と罰」16(1−2)

 マルメラードフは話すのを止めると笑いそうになった。すると急にそのあごが跳ねるように動き出した。もっとも彼はこらえていたが。この居酒屋、堕落した様子、干草船での五日間それにウォッカの瓶、こうしたものと妻と家族に対する病的な愛情が一緒になっていることは聞き手を混乱させた。ラスコーリニコフは緊張して耳を傾けていたが、病的な感覚を伴っていた。彼はここに来たことをいまいましく思っていた。

 「旦那様、旦那様!――マルメラードフは平静を取り戻すと叫んだ。――ああ、旦那様、あなたにとっては、おそらく、こんなことはみなお笑い種でしょう。他の人にとってと同じようにね。私は自分の惨めな家庭生活をぶちまけるという愚によってあなたに心配をかけているにすぎません。ですがもちろん私にとってはお笑い種などでは断じてない!と申しますのはこれらすべてを実感することができるからです。私の人生におけるあの天上の日々の間ずっと、あの夜の間ずっと私はといえばつかの間の夢想の中で過ごしておりました。つまりね、なんでもしてあげるのです。子供らに服を買ってやり、妻には安心を与え、一人娘は侮辱の中から家族の元に返してやる・・・。それに多くの、多くのことが・・・。許されたのですよ、旦那様。ええとですね、旦那様(マルメラードフは突然びくっとしたかのように頭を上げ、まじまじと相手を見つめた。)ええとです。さてまさにその次の日、これらのあらゆる夢想の後、(つまりこれはきっかり5晩前ということになりますかな。)夕方近くでした。私はずるいうそをついて、闇夜の盗人のように、カテリーナ・イヴァーノヴナのところから長持ちの鍵を盗み出すと、持ち帰った給料の残りを取ったのです。全部でいくらだったか全く覚えていません。さあこれで、私の方を見て下さい、全部です!家を出て5日目になります。むこうじゃ私を探し回っていますし、勤めはおじゃん、制服はエジプト橋のたもとの居酒屋にあります。その代わりに受け取ったのがこの服でして・・・何もかも終わりですよ!

 マルメラードフはげんこつで額を叩くと、歯をくいしばって目を閉じ、片ひじをテーブルにすえた。だが1分後その表情はがらっと変わった。ある不自然な狡猾さと作り物の図々しさを伴ってラスコーリニコフの方を見ると、笑い出し、それから口を開いた。

 「で今日はソーニャのところへ行ってきたんですがね、迎え酒の無心をしに行ったんですよ!へ、へ、へ!」

 「まさかくれたなんてことは?」どこからともなく叫んだのは入店者の誰かで、叫ぶと馬鹿笑いを始めた。