「罪と罰」69(2-4)

 「ああそうだった!まあ聞けよ。ちょうど三日目だったな、殺人があった後の、朝早くだ。連中がまだあそこでコーフとペストリコーフのことで大騒ぎしていた時――もっとも彼らは自分の一挙手一投足を証明し終えていたんだけどな。明らかも明らかさ!—―突然予想だにしない事が起きたのさ。ドゥーシキンとかいう農民が、まさしくあの建物の向かいにある酒屋のオーナーなんだが、警察署にやって来て、金のイヤリングの入った宝石ケースを持ってだ、長い話を語り出したのさ。“奴が俺のとこに走ってやってきたのは夕方でさ、おとといの8時を過ぎてすぐってとこだな――日にちと時間!ちゃんと理解してるか?――ブルーカラーの染色工でさ、この時までに俺んとこに一日に何度も立ち寄っていたミコライって奴なんだが、金のイヤリングと宝石の入ったこの箱を俺のとこに持って来て、これを質にして2ルーブル頼むときた。そんで俺のどこで手に入れたっていう質問に対しては、歩道で拾ったときっぱり言ったんだ。それ以上は彼にあれこれ尋ねなかった。――とまあこんなことをドゥーシキンという奴が言うのさ。――彼に一枚出してやったんだが、つまり1ルーブルをだな、なぜって、俺でなければ別の人に質入れして、いずれにせよ飲んじまう。ならいっそ俺んとこで物を受けた方がいい。より遠くに置いておけば、いつでも使えると言うだろ。そんで何か事が起きたらもしくは噂が流れたら、その時は提しつするのよ。”まあ、もちろん、荒唐無稽な話でさ、馬みたいに嘘をつくんだ。なぜって俺はこのドゥーシキンを知っていて、奴当人は高利貸しで、盗品を引き受けているのさ。そんで13ルーブルの物は“提しつ”するためなんかじゃなくて、ミコライからちょろまかしたにすぎない。ただ怖気付いちまったのさ。さてそれはさておき話に戻ろう。ドゥーシキンが続けて言うにはだ。“この農民、ミコライ・デメンチエフを俺はちっちぇえ頃から知っててよ、俺たちの県、郡はザライスキー、だから俺たちゃリャザン人ってわけよ。でミコライはのん兵衛とまではいかないが酒好きでよ、俺たちゃ知ってたよ、あいつがまさにあの建物で働いてて、ペンキ塗ってんのを。ミトレイと一緒に。ミトレイと一緒にっつうのは、あいつら同じぇとこの出なんだ。で一枚受け取とっと、奴はそれをすぐ崩して、一気に2杯飲んで、釣りを受け取ると行っちまった。でミトレイはそん時あいつと一緒にいるのは見なかったな。そんでその翌日俺はアリョーナ・イヴァーノヴナとその妹リザヴェータ・イヴァーノヴナが斧で殺されたのを噂で知ったのよ。俺はあいつらを知ってたんですぜ。その時イヤリングに関してうたげえを持ったのさ。なぜって仏が物を担保に金を貸してたのを俺はよく知ってたからさ。俺はあいつらの家に向かって歩き出すと慎重に自問自答し始めた。足どりは落ち着いたもんさ。真っ先に問うたのは、そこにミコライはいたのか、っつうことだ。ミトレイが言うにはだ。ミコライは遊びまくって明け方家に戻って来た。酔っ払って。家にはだいたい10分くらいいてまた出掛けた。でミトレイはその後もう彼とは会ってなくて、一人で仕事の仕上げをしていた。彼らの仕事場は殺された連中と同じ階段を使う二階なのさ。これらのことをみんな聞いたんだけどよ、俺はそん時誰にも何にも明かさなかった。―とドゥーシキンが言ってるのさ。――で殺人のことについてはできうる限り探り出して家に帰ったんだがやっぱりうたげえは消えてない。で今日の朝早く、8時に――つまりこれは三日目ということだな、いいかい?――目にするわけだ。俺んとこにミコライが入ってくるのを。しらふじゃなかったが、泥酔してるってんでもねえ。話は通じる。ベンチに腰を下ろして黙ってやがる。で奴いげえで酒屋にそん時いたのは無関係な一人の男、それからベンチで寝てる別の男、知り合いのよしみってやつでな。それとうちのガキが二人それだけだったな、旦那。――ミトレイと会ったか?って、尋ねると――会ってない、と言う。――ここにも来てなかったのか?――来てなかった。おとといから。――じゃ今日はどこで夜を明かしたんだ?――砂町で、コロムナ出身の奴らんとこ、と言う。じゃどこでイヤリングを手に入れたんだ、と聞くと――歩道で見つけた、と。――奴のその言い方ときたら、まるで良からぬことみたいに目を見ずに言うのさ。――ところでそう、まさにあの夜、あの時間に、あの階段で何があったか聞いたか?と俺が言うと――いや、聞いてない、ときたもんだ。奴は耳を傾けていたよ。目は見開いてな。すると突然チョークみたいに白くなりやがった。俺はそのことをあいつに話して様子を見てると、奴は帽子を取って立ち上がろうとしたんだ。ですぐ俺はあいつをひきとめようとして――ちょっと待てよ、ミコライ、まさか飲まないのか?――と言ったのさ。俺はガキにドアを抑えておくよう目配せして、カウンターから回り込もうとした。そん時奴は俺のとこから飛び出すやいなや、道に出て、走ってだ、裏道に消えちまった。俺が奴を見たのはそれっきりさ。こん時俺は自分のうたげえを確信したのさ。だってあいつの仕業だってことは完全に・・・”

 

 「もっともだな!」ゾーシモフが発言した。

 

 「待てよ!結末を聞けよ!当然フルスピードでミコライの捜索が始まった。ドゥーシキンは拘束され家宅捜索が行われた。ミトレイも同様さ。コロムナ出身の連中も隅から隅まで調べられた。すると突然一昨日だ。当のミコライが連行されてきた。どこそこの関所近くの宿屋で取り押さえられたのさ。奴はそこに来ると身に付けていた十字架を外し、銀製のだぜ、十字架を質にしてウォッカを頼んだ。与えられたさ。数分後農婦が牛小屋に出かけて行くと隙間から見えたのさ。彼が隣の物置場で梁に革帯を結び付けて輪を作ったのが。丸太の上に立つと自分の首に輪を掛けようとしている。農婦が声を限りに叫ぶと、駆け集まって来た。――こりゃいったいどうしたことだ!――俺をどこそこの警察署につれて行ってください。みんな罪を認めます。――と言う。それで奴は然るべく護衛に伴われて某警察署に、つまりここに突き出された。あれやこれやが始まって、誰が、どうやって、年齢は――22歳――その他もろもろさ。この質問“ミトレイと働いていた時、階段で誰か見なかったか、いついつの時間に?”に対しては、この回答“もちろんいろんな人が通っていただろうが、俺たちゃ気に留めてなかった。”“では何か耳にしなかったか、騒音とか何か?”“特に変わった音は何も聞いてない。”“それでお前はまさにあの日のうちに知っていたのか、ミコライ、某未亡人が某日時にその妹と共に殺され、強奪されたのを?”“少しも知らない。全く知らない。アファーナシー・パヴルィチから三日経って居酒屋で初めて聞いた。”“ところでイヤリングはどこで手に入れたんだ?”“歩道で見つけた。”“どうして翌日ミトレイと一緒に仕事に出てこなかったんだ?”“それは遊び歩いていたから。”“どこをうろついていたんだ?”“かくかくのところを。”“どうしてドゥーシキンのところから走り去ったんだ?”“それはそん時すげえ恐ろしかったから。”“何が恐ろしかったんだ?”“そりゃ黒だとみなされることさ。”“もしお前が何に対しても後ろめたさを感じてないのだとしたら、そんなこと恐れるのか?・・”さてお前が信じようが信じまいが、ゾーシモフ、この質問はなされた。しかも文字通り先の表現で。俺に正確に伝言されたことは間違いない!どう思う?どう思う?」

 

 「ふむ、がしかし証拠が存在している。」

 

 「でも俺は今証拠についてどうこう言ってるんじゃない。問題、彼らが自分の役回りをどう理解しているかについて話しているんじゃないか!やれ、くそったれ!・・さて、で彼はうんと絞られた。絞られて、絞られて、まだ絞られて、そんで罪を認めちまった。奴が言うには“歩道で見つけたんじゃなくて、アパートで見つけた。ミトレイと塗ってるとこで。”“一体どのようにして?”“そりゃまあ、あれさ、ミトレイと一緒に一日中塗ってたんだ。8時まで。そんで帰る準備をしていると、ミトレイが刷毛を手に取って俺の面にペンキを塗ったのさ。奴は俺の面にペンキを塗りつけて、しかも逃げた。で俺は後を追う。俺は奴の後を走って追いかけ、馬鹿でけえ声で叫ぶ。で階段から門の下の通路に出た時、俺はもの凄い勢いで庭師と紳士連中にぶつかちまった。何人いたかは思い出せない。で庭師はそのことで俺を罵った。他の庭師も罵った。庭師の奥さんが外に出てきて、やはり俺たちを罵った。それから一人の紳士が門の下の通路に入って来て、レディ連れだったな、やはり俺たちを罵った。というのも俺とミーチカが通路を塞いで横になっていたから。俺はミーチカの髪を掴んで引き倒し、ぶん殴り始める。ミーチカも同様、下から髪を引っ掴んでぶん殴り始める。でも俺たちがこんなことをするのは憎いからなんかじゃなくて、みんなもちろん愛情からくるお遊びさ。でその後ミーチカは抜け出して通りに逃亡、俺は奴の後を追ったが追いつけなかったからアパートに一人で戻った。片づけんといかんなあと思って。俺は帰り支度を始めて、ミトレイを待った。ひょっとしたらくるかもしれんだろ。そう、で通路のドアのとこ、壁の向こうの隅で小さな入れ物を踏んだんだ。見ると、紙に包まれてある。俺は紙を剥ぐと、フックが、それは小さなフックがかかっていて、そのフックを俺が外すと――なんとその入れ物の中にイヤリングが・・・”

 

 「ドアの裏?ドアの裏にあったのか?ドアの裏に?」ラスコーリニコフは突然叫んだ。濁って驚きに満ちた視線をラズミーヒンに向けたま、ゆっくりと腕を支えにしてソファの上で上体を起こした。

 

 「そうだ・・・それが何か?どうした?なぜそんなことを?」ラズミーヒンも座っている場所から少し腰を浮かした。

 

 「何でもない!・・」何とか聞き取れるような声でラスコーリニコフは答えた。また枕の上に頭を沈め、再び壁の方に向き直りつつ。少しの間みな沈黙した。

 

 「眠りかけで寝ぼけているのさ。」ラズミーヒンが沈黙を破った。問い掛けるような視線がゾーシモフに向けられていたが、彼は頭で軽く否定するような仕草をした。

 

 「さあ、続けてくれ。」とゾーシモフが言った。「それでどうなった?」

 

 「それでどうなっただって。彼はイヤリングを見るやいなや、そりゃもうあっという間に住居のこともミーチカのことも忘れちまって、帽子を引っ掴んでドゥーシキンのとこへ駆け出した。そして知っての通り彼から1ルーブルを受け取ると、歩道で見つけたと彼には嘘をついておいて、すぐさま遊びに身を任しちまったというわけさ。で殺人については先のことを裏書きする内容だな。“全くもってして知らない。ようやく三日目に耳にした。”“一体何故にお前は今まで出頭してこなかったんだ?”“恐くて。”“ではなぜ首をくくろうとしたんだ?”“想像してさ。”“どんな想像を?”“黒だとみなされるかもって。”これが話しの全部さ。さあどう考える。彼らはここから何を導き出したろう。」

 

 「考えも何もないさ。犯跡がある。例えそれがどんなものであろうと確かにある。事実さ。御執心の塗装工を解放するなんてできるはずあるか?」