「罪と罰」14(1−2)

今度はあなたにお尋ねします。旦那様。私の方からプライベートな質問をさせて下さい。貧乏だけれど真面目な娘がまともに働いて沢山稼げると思いますか?・・1日で15コペイカになりませんよ、旦那様。仮にまじめであったとしても特別な才能でもなければ。しかもせっせと働いてですよ!しかも5等官のクロプシュトーク、つまりイヴァン・イヴァーナヴィチですが――お聞きになったことございませんか――オランダ製のシャツ半ダース分の裁縫の代金を未だに支払っていないばかりか、侮辱までくっつけて突っ返してきたじゃないですか。地団駄を踏んで、シャツの襟が寸法通りでなく、しかも斜めに縫われているとかいう口実を無作法にもつけてね。でおまけに子供たちは腹を空かしている・・・。でおまけにカテリーナ・イヴァーノヴナは手を揉みながら部屋の中を歩き回り、しかも頬には赤い斑点が出ているんですよ。――あれはこの病には付き物でしてね。そして《お前が暮らしているのはさ、ねえ、穀潰し、私のところなんだよ、飲み食いもすりゃ、暖も取って。》なんて言うんです。でもどうしてその時飲んだり食べたりなんてことが。子供たちでさえ3日間一切れのパンを見ていないっていうのに!横になっていましたよ、私はその時・・・まったくどうしようもないですよ!酔っ払って横になっていたのでございます。すると聞こえてくるんです、私のソーニャがしゃべっているのが。(あれは口答えのできない子で、声なんかそれはもうおとなしくて・・・金髪で、小さい顔はいつも青白くって、痩せているんです。)その彼女が言うんです。《本気なんですか、カテリーナ・イヴァーノヴナ。本当に私があんなことしなければいけないんですか。》すでにダーリヤ・フランツェーヴナが、悪い女で度々警察の厄介になっている女なんですが、3回ばかり宿主を通じて立ち寄っていたんです。《それがどうしたっていうの。――カテリーナ・イヴァーノヴナは嘲り笑って言いました――大切にしておくようなものかい?大したお宝だよ!》でも責めないでください、どうか、旦那様、責めないでください!これは健全な判断力のある状態で発せられたのではなく、興奮した状態で、病にとりつかれていて、腹を空かした子供たちの鳴き声がしている中で発せられたものです。それにこれは言葉通りの意味というよりも、侮辱するために発せられた言葉ですので・・・と申しますのはカテリーナ・イヴァーノヴナはなんと言ってもああいう性格ですので、子供たちが激しく泣きだそうものならそれが空腹のためであったとしても、すぐにぶちはじめるくらいなんです。それから私は見ていました。5時過ぎくらいでしょうか、ソーネチカは立ち上がって、ショールを羽織り外套を着て家から出て行きました。そして8時過ぎに帰ってきました。戻ってくると真っ直ぐカテリーナ・イヴァーノヴナのところへ行き、彼女の前のテーブルの上に30ルーブルを黙って出して置きました。その際一言も喋らず、ちらっと見ることさえしませんでした。それから私たちの大きな薄手の緑のショール(うちにはそういう共有のショールがあるんです、薄手のやつが)だけを手に取って、それで頭と顔をすっぽり覆うとベッドに横になりました。顔を壁に向けて。ただ小さな肩と体だけがずっと震えていました・・・。一方私はちょっと前と同じ姿勢で横になっていたのでございます・・・。そしてその時私は見たのです、お若い方、見たのですよ。後になってカテリーナ・イヴァーノヴナは同じように一言もしゃべることなくソーネチカの寝ているところに近づいて行って、一晩中ベッドの足のところで膝立ちで立っていたのです。彼女の足に口づけして、立ち上がろうとしませんでした。それからそのまま二人は一緒に眠ってしまいました。抱き合ったまま・・・二人でね・・・二人で・・・そうでございます・・・で私は・・・酔っ払って横になっていたのでございます。」

マルメラードフは黙り込んだ。まるで声が途切れてしまったかのように。それから突然急にコップに注いで飲み干すと喉を鳴らした。