「罪と罰」56(2−2)

 確かにそれはその通り、全くその通りだった。とは言え彼はそのことを以前にも知っていたので、決してそれは彼にとって新しい疑問というわけではなかった。夜、水の中に捨てることが決まった時、どんなためらいや反論も無かった。それどころか、それはそうであるべきかのように、他の選択はあり得ないかのようであった・・・。そう彼はこのことを全部知っていた。全部覚えていた。それにこのことはすでに昨日ほぼそのように決まっていたのだ。まさにあの時、彼が長持の上に座り、そこからケースを引っ張り出していた時に・・・。そうではないか!・・

 “それは俺がひどく病んでいるからだ――陰鬱な面持ちで彼は最後に結論付けた――俺は自分で自分を散々苦しめ苛んでいたから、自分で自分が何をしているのか分からなくなっているのだ・・・。昨日も一昨日も、その間ずっと自分を苛んでいた・・・。良くなれば・・・自分を苛むこともなくなるさ・・・。でも全然良くならなかったら?ああ!こんなことは何もかもうんざりだ!・・”彼は立ち止まることなく歩き続けていた。どうかして気晴らしをしたくてたまらなかったが、彼は何をしたらいいか、何に手を付けたらいいか分からなかった。

 ある新しい抗し難い感覚がほぼ1分ごとに彼をますます強く捉えていった。それはある種の終わりなき、ほとんど肉体的な、出会うもの取り巻くものすべてに対する嫌悪で、しつこくて敵意があり憎悪に満ちていた。彼は出会う者すべてが忌まわしかった。――その表情、歩き方、動きが。

 ただもう相手を物ともしないでかみついたであろう。もしも誰かが彼に話しかけたとしたら・・・。

 彼が突然立ち止まったのは、ワシーリエフスキー島の橋のすぐ近くにある小ネヴァ川河岸通りに出た時であった。“ここだ。彼が住んでいるのは。この建物だ。――彼は思った。――これはどうしたことだ。どうやら俺はラズミーヒンのところへ自ら来てしまったらしい!また同じ事が、あの時のように・・・だが非常に興味深いぞ。俺自身でここに来たのか、それともただ歩いていたらここに来ることになったのか。どうでもいいことだ。俺は言った・・・一昨日・・・彼のところへは例の後、翌日行こうと。仕方ない。では行くとしよう!まるで寄っちゃいけないみたいじゃないか・・・”

 彼はラズミーヒンのいる5階に上った。

 彼は家に、自宅の小部屋にいた。その時仕事で書き物をしていたが、自分でドアを開けた。彼らが最後に会ってから4ヶ月ほど経っていた。ラズミーヒンは自宅にこもっており、ぼろぼろになるまで着古した長衣を身にまとい、裸足で靴を履き、髪は乱れ、髭は剃っておらず、顔は洗っていなかった。彼の顔には驚きが現れていた。

 「どうした?」そう叫んだ彼は、入ってきた友人を足の先から頭のてっぺんまで見回していた。その後少し沈黙してから口笛を吹いた。

 「本当にそんなに悪いのか?確かに君が、ロジオン、僕らの中じゃ一番のめかしやだ。」そう言葉を継いだ彼の目はラスコーリニコフのぼろぼろの服に向けられていた。「座れ座れ、疲れたろ!」そして当人が油布製のトルコ風ソファに崩れ落ちた時、ちなみにそれは彼のよりまだぼろぼろなのであるが、ラズミーヒンは客が病気であることを突然見て取った。

 「本当に冗談抜きで悪いぞ、分かっているのか?」彼は脈を取り始めた。ラスコーリニコフは腕を引き抜いた。

 「止めろ」と彼は言った。「僕が来たのは・・・あれさ、家庭教師の仕事が何にも・・・しかけたんだ・・・でも僕には家庭教師の仕事なんか全然必要じゃない・・・」

 「おいおい?うわ言を言ってるじゃないか!」彼をじっと観察していたラズミーヒンが指摘した。

 「いや、うわ言を言ってるんじゃない・・・」ラスコーリニコフはソファから立ち上がった。ラズミーヒンの方を向いて腰を浮かせた時、次のことは彼の頭になかった。彼と面と向かって相対しなければならないことになる、ということは。ようやく今になって、瞬時に彼は気付いた。最早経験して。今は全世界の誰であろうと面と向かって相対するような気分では全くない、ということに。彼の中で怒りが込み上がった。彼は自分自身に対する恨みのために危うく息が詰まりそうになった。ラズミーヒンの家の敷居を跨いだばかりであった。