「罪と罰」30(1−5)

≪確かに俺はラズミーヒンについこの間また仕事を頼もうとした、あるいは家庭教師の口を手に入れてもらおうとして、あるいは何かしらを・・・――ラスコーリニコフは考えを辿っていった――だがこの今になって、何でもって彼は俺を助けられるだろう?仮に家庭教師の口を手に入れ、仮に最後の1コペイカまでも分かち合うとしよう、彼に金があったとしての話だが、そうすれば長靴を買うことだって、背広を繕うことだってできる、家庭教師に行くために・・・ふむ・・・それでその先は?はした金なんかで一体何をする?俺にそんなものが本当に今必要か?全く滑稽だね、ラズミーヒンのとこに行くなんて・・・≫

 なぜ今になってラズミーヒンの元へ出かけたかという問いは、彼自身にさえ思われていたよりももっと彼を心配させていた。不安な面持ちで彼はこの極めて普通にも思われる行為のうちに、自分にとって何らかの不吉な意味を見出そうとしていたのである。

≪まあいい、しかしまさか俺はラズミーヒンの力だけですべての事を立て直そうとし、あらゆる事に対する解決策をラズミーヒンの中に見出していたわけじゃあるまいな?≫――驚きと共に彼は自問した。

 彼は考え、額をこすっていた。すると不思議なことに、どうしてか不意に、突然ほぼひとりでに、非常に長い熟考の後彼の頭にあるいとも奇妙な考えが浮かんだ。

≪ふむ・・・ラズミーヒンの――突然彼はすっかり落ち着き払って言い放った。まるで最終的な決定を意味するかのように――ラズミーヒンのところへ行こう、これは当然だ・・・だが今ではなく・・・彼のところへは・・・翌日に、あれの後行こう、もうあれが済んだ時に、全てが新しく動き出す時に・・・≫

 すると突然彼は我に返った。

≪あれの後――叫び声を上げながら彼は突然ベンチから腰を浮かせた。――本当にあれが起きるのか?まさか実際に起きるなんてことが?≫

 彼はベンチを後にして歩き出した、ほとんど走り出した。もと来た方、自宅の方に足を向けかけたが、自宅に帰るのは突然ひどく不快になった。まさにあそこなのだ、一隅なのだ、他でもないあの悲惨なタンスの中なのだ、こうしたことすべてがもう一月以上かけて熟していったのは。そこで彼は気の向くままに歩き出した。

 発作的な震えは何らかの熱病にかかったかのような震えに変わり、彼は悪寒さえ感じていた。このくそ熱い中彼は寒くなってきた。あたかも努力して始めたかのように、ほぼ無意識に、ある内面の必要に迫られ、彼は出くわした事物全てを食い入るように見始めた。それはまるで必死になって気晴らしを探し求めるかのようであった。だがこれはうまくいかなかった。それで彼は1分ごとに物思いに沈んでいった。びくっとして再び頭を上げ辺りを見回す時には、ついさっき考えていたこと、さらにはどこを歩いてきたかということすらすぐもう忘れてしまうのだった。そんな風にして彼はワシーリエフスキー島を歩き切り、小ネヴァ川に出ると、橋を渡り群島の方に曲がった。植物と爽やかな空気が最初彼の疲れた目に、町の埃、漆喰、巨大で窮屈かつ威圧的な建物に慣れた目に好ましく映った。そこには蒸し暑さも悪臭も居酒屋もなかった。だがすぐにこの新しくて心地よい感覚も病的で苛立たしいものに変わった。時折彼は緑で飾られたある別荘の前で立ち止まり、柵から覗き込んで、バルコニーやテラスにいる着飾った女たちや庭を走り回る子供たちを遠目に見た。特に彼を惹きつけたのは花で、一番長いことそれに目を向けていた。複数の豪華な馬車とその乗り手の男女らにも出会った。興味深そうに目で追っていたのだが、彼らが視界から消えてしまう前に彼らのことは忘れているのだった。ある時彼は立ち止まって自分の金を一枚一枚数えた。すると約30コペイカあった。≪20コペイカは巡査に、3コペイカはナスターシャに手紙代として、――ということはマルメラードフ一家に昨日47か50コペイカ遣ったことになる≫――そう考えた彼は何かしらのために計算していたのだが、一体何のために金なんかをポケットから出したかということすらすぐに忘れてしまっていた。彼がこのことについて思い出したのは一軒の飲食店、旅籠屋の類の脇を通りかかった時で、それから空きっ腹なのを感じたのであった。旅籠屋に入ると彼はウォッカのグラスを飲み干し、何かを詰めたパイを頬張った。それを彼が食べ終わったのは再び往来に戻った時であった。彼は随分前からウォッカを飲んでいなかったので、それは一瞬にして効いた。もっとも飲んだのは全部で一杯のグラスだけだったのであるが。足が突然重くなり、強い眠気を感じ出した。彼は家路に就いた。しかしはやペトロフスキー島にまで辿り着くと疲労困憊で足が止まってしまった。道を逸れて灌木の茂みに入り、草の上に倒れこむと、その瞬間には寝入っていた。