「罪と罰」25(1−4)

  《ふむ、それは正しい、――彼は頭の中で渦巻いていた想念の後を追いながら続けた。――それは正しいさ。“人をよく知るためには徐々にそして慎重に”付き合う必要がある。だがルージン氏ははっきりしている。肝心なのは“実務的な人間で、善良らしい”という点だ。冗談じゃない、荷物を引き受け、大きい長持ちは自分の金で送り届けるんだぜ!いったい善良じゃないなんてことが?でも彼ら二人、花嫁と母親は農民を雇って荷馬車に乗る、こもで覆われた(だって俺はそうやって行ったんじゃないか)!どうってことはないさ!だってたった90露里じゃないか、“そしてそこで三等に乗り、あっという間に無事到着”、約1000露里をね。賢明でさえあるよ、衣服に合わせて足を伸ばせって言うもんな。だがあんたは、ルージンさんよ、いったいどうしてだ?だってこちらはお前さんの花嫁だぜ・・・。それに母親が年金を担保に旅費を前借りしていることを知らないなんてことが?もちろんこの場合、お前さんの下では共通の商取引が、相互の利益と負担の公平な分担に基づく事業が成立している。すなわち出費も折半にということだ。親しい間柄にも限度はある、ことわざにあるとおりさ。だが今回みたいな場合においても実務家さん、少しばかり彼らを担いだな。つまり荷物代は彼らの運賃よりも安上がりってわけだ、おそらくただ同然にもなるんじゃないか。あの二人はこのことを分かっていないっていうのか、それともあえて気付かないでいるのか?すっかり満足してしまっているんだ、満足なんだ!でもこれはほんの序の口で、本当の結果は先に控えているということを考えれば!この場合において重要なことは何か。この場合重要なのはケチなことでも、欲張りなこともでもない、こうしたこと全体のトーンだ。だってそれが将来の結婚生活のトーン、予言だろ・・・そして母さんはいったい何だって、それにしても浮かれているんだ?何を持ってペテルブルクに出て来るんだろう?3ルーブルあるいは2枚の“兌換券”を持ってか、あいつが言うところの・・・ババアが・・・ふむ!いったい何をあてにしてペテルブルクでその後暮らしていくつもりなんだろう?だってすでに何らかの理由で予想できてしまったじゃないか、結婚後ドゥーニャと一緒に暮らすのは不可能だってことを、初めのうちでさえ。感じのいい人はきっとどうかしてその場で口を滑らし、自分という人間を感じさせたのだ。もっとも母さんは両手でそれを追っ払おうとさえしているわけだが。“私自身は断るつもりです”なんて言ってね。彼女は一体何を、一体誰をあてにしているんだ。年金の120ルーブル、そこからアファーナシー・イヴァーノヴィチに対する借金が差し引かれる?冬物のネッカチーフを編んで、袖当ての刺繍をし、年老いた目を悪くする。だがネッカチーフは年にたった20ルーブルを120ルーブルに加えるにすぎない、こんなことは俺には分かり切ったことだ。ということは、やはりルージン氏の高潔な感情が当てにされているってわけだ。“自ら提案し、頼み込むでしょう”なんて言ってるんだからな。待ったってだめさ!このシラー風の美しき魂の下においては、まさにほらいつだってこんな具合になるんだ。つまり最後の瞬間まで人を孔雀の羽根で飾り立て、最後の瞬間まで善を、悪ではなく期待し、メダルの裏面を予感しても決して自分自身に対して本当の言葉をあらかじめ言うことはない。彼らを歪めているのはある考えであり、沢山のもので飾り立てられた人間が彼らを自らの手でペテンにかけるまさにその時まで、両手で真実を追っ払っているのだ。それはともかく興味あるのはルージン氏が勲章を持っているかどうかということだ。賭けてもいい、アンナ勲章は上着のボタンの穴に収まり、請負人や商人との昼食の席ではそれを身に付けているに違いない。恐らく自分の結婚式でも身に付けているさ!だがやつなんかどうとでもなれ!・・